イトマキエイはマンタなのか?「マンタ」の胎児を観察したついでに考えてみた

早いものでもう9月。今年もあとわずかなので悔いのないようにサメ活していきたいものです。 先日毎月恒例のサメ談話会に参加して貴重なエイの標本を観察させていただきました!



小っちゃい赤ちゃん!!!可愛すぎる><!!!

この子のことだけ紹介してもよかったのですが、せっかくなので今回は「マンタ」という存在について僕なりに解説をしていきます。

目次:
【いわゆる「マンタ」って何者?】
【イトマキエイはマンタにあらず?】
【今回の標本は?】


【いわゆる「マンタ」って何者?】
まずサメ好きがなぜエイの話?という方への大前提として一応話すと、サメとエイは分類学上近い仲間です。同じ軟骨魚綱・板鰓亜綱というグループに分類されます。

あくまでイメージですが、メンフクロウとハシブトガラスくらい近いと思ってください(余計分かりづらかったらごめんなさい笑)。


そんなエイの中でも人気が高く有名なのがマンタです。500種類以上いるサメとさらに種数が多いエイの仲間が全然分からないと嘆く人でも、マンタと聞けば、翼で空を飛ぶように優雅に泳ぐあの姿が頭に浮かぶと思います。

 
そんな「マンタ」ですが、実は2種類いるというのはご存知でしょうか?

そもそも「マンタ」はマントのような姿からついたとされるあだ名みたいなもので、オニイトマキエイという種を指す言葉でした。

昔のマンタといえば、このオニイトマキエイの1種を指していました。 ところが、近年オニイトマキエイと混同されていたナンヨウマンタという種が新たに記載されたのです。ちなみに上の写真はナンヨウマンタのものです。

学者、一般人、マニア、いろんな人たちによって考え方はあると思いますが、僕が思うに現在「マンタ」はオニイトマキエイとナンヨウマンタ両方を指す総称みたいになっています。

オニイトマキエイとナンヨウマンタは見た目はよく似ていますが、背中の模様や口周りの色など違いさえ知っていれば見分けることは可能です。また、ナンヨウマンタよりもオニイトマキエイの最大サイズが大きいことも特徴です。

ちょっとデフォルメが過ぎる絵ですが、簡単に特徴を並べてみましたので参考までに。

オニイトマキエイは背中の白い模様が口と並行に近いこと、口の周りが黒いことが特徴です。

 

ナンヨウマンタは背中の白い模様が口と比べて角度があること、口の周りが白いことで区別できます。


ちなみに、日本で「マンタ」を見ることができる水族館はアクアパーク品川や美ら海水族館などがありますが、飼育されているのはどれもナンヨウマンタです。

美ら海水族館では2018年にオニイトマキエイが短期間だけ見ることができましたが、2019年9月現在はナンヨウマンタだけが展示されています。日本近海で見ることができる「マンタ」もほとんどがナンヨウマンタのようです。  


【イトマキエイはマンタにあらず?】
では次にこちらのエイをご覧ください。



はい、これもぱっと見マンタに見えますが、オニイトマキエイでもナンヨウマンタでもありません。こちらはイトマキエイというまた別の種になります。

ちょっと細かい違いですが、イトマキエイは口の位置がマンタ達と違うことで区別することが出来ます。オニイトマキエイやナンヨウマンタの口が体の前縁についているのに比べ、イトマキエイの口はややお腹側についています。

この顔を下から覗くとイトマキエイは微笑んでいるように見えるので実に可愛らしいです。

下から見たイトマキエイ。可愛い・・・。


ここでちょっと疑問が。イトマキエイは「マンタ」なのか?


イトマキエイが分類されるイトマキエイ属はMobulaと呼ばれます。この属名からきている「モブラ」はダイバーなどでもイトマキエイやヒメイトマキエイを指す総称として使われています。

なので先述の通り、「マンタ」はオニイトマキエイと、近年までその同種と思われていて和名に「マンタ」がつくナンヨウマンタに使う総称、としておくのが良いかなと思います。

ただし、理屈っぽい僕はここから話をかき乱します笑


2017年、オニイトマキエイ属(Manta)をイトマキエイ属の(Mobula)中に含めるという内容の論文が発表されました。これにより、いかにも「マンタ」っぽい学名であるManta birostris から Mobula birostris にオニイトマキエイの学名が変わっちゃいました ちなみに、ナンヨウマンタもMobula alfredi なのでイトマキエイ属です。

さらにちなんで付け加えると、同論文でイトマキエイの学名がMobula japonica から Mobula mobular になっています。


ここで改めて僕は考えます。学名のMantaではない総称「マンタ」はどこまでを含むのか?

慣習に習えばオニイトマキエイとナンヨウマンタを「マンタ」と呼ぶのがしっくりはきますが、オニイトマキエイもナンヨウマンタもMobulaの仲間になったので、もはや「マンタは存在しない」という暴論ゴリ押しもできそう。しかしそれでは寂しいので「マンタ」という総称を使い続けるとしたら、どこまでを指すのか。従来通りオニイトマキエイとイトマキエイだけなのか。いやしかし、同じ仲間になっちゃったんだからイトマキエイも「マンタ」でいい気がしてくる・・・。この際Mobulaの仲間全部「マンタ」でよくないか・・・?


ぶっちゃけて言えば僕はどっちでもいいんです笑(ここまでややこしくして放棄)。

学名のMantaであれば学術的に分類してはっきりさせる必要がありますが、ここで言う「マンタ」は厳密な定義というよりぼんやりとした共通認識な気がします。 なので、水族館で誰かがイトマキエイを見て「マンタだ!」と言っても、チョウザメを見て「サメだ!」と言う人にやるほどしっかり訂正する気は起きません。

ただし、オニイトマキエイとナンヨウマンタだけ「マンタ」とする見方が、やはり一般的な気がしますので、他のところで「これはマンタじゃない!」とか言われても僕のせいにしないでくださいね笑。

 

【今回はの標本は?】
さてさて、マンタという存在について理解を多少深められたところで、今回の標本を見ていきましょう。

今回観察させていただいたのは、子宮の袋に入った「マンタ」らしきエイの胎仔です。死んでしまったのは非常に可哀想ですが、せっかくですのでじっくり観察させていただきました。

子宮に入った状態の胎児
子宮内でこんな風になっていました。

 

子宮内側の壁です。恐らくこのしわしわの部分から栄養液が出ていると思われます。

さあ、この「マンタ」らしきエイは一体何の子供なのか?







「マンタ」の胎仔をここまでじっくり観察したのは初めてだったので確証はないですが、母胎が漁獲された場所(静岡県)、噴水孔の位置、口の位置、尾に針と思しき小さな突起物があったことから、イトマキエイ(学名:Mobula mobular)の子供ではないかと思われます。

今回の会ではこのように貴重な標本を間近で観察する機会に恵まれ、これをきっかけに分類学の奥深さ(闇?)を少しだけ垣間見ることができました。

また貴重な標本など観察できた際にはブログまたは動画で紹介していくので引き続きよろしくお願いいたします!


※今回の分類についての議論は“Phylogeny of the manta and devilrays (Chondrichthyes: mobulidae), with an updated taxonomic arrangement for the family”という論文をもとに行っています。論文や資料により今回の記事と異なる学名記載がされている場合があります。予めご了承ください。



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第33回八王子ネイチャートーク
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日時:10月5日(土)16:00~17:30
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TEI:042-621-0292

参加費:一般:2000円 学生:1000円 小学生以下:無料

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【Writer Profile】

サメ社会学者Ricky

1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国ポートランド州立大学へ留学。2016年から現在の肩書を使って活動。社会人として働きながら、サメや環境問題などについて情報発信を行なっている。水族館ボランティアとしても活動。主な発信分野はサメの生態、水産業、動物倫理、進化生物学など。

Youtubeでの動画配信や、第3回ソーシャルドリームコンテスト、もうやん文京などプレゼン・レクチャーイベントで登壇。今後、書籍の出版など活動の幅を広げていく予定。

メールでのお問い合わせ、質問などはコチラ! shark.sociology.ricky@gmail.com

 

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