400歳生きる巨大ザメ?ニシオンデンザメを解説!

今回は以前に動画でも紹介したニシオンデンザメについてです!とにかくこのサメは最高に面白いです。

「ニシオンデンザメ」という名前を初めて知った人のためにざっくりまとめると、こんな生物です。

全長6m近くになる巨大ザメ!
世界一ゆっくり泳ぐ魚!
世界一長生きな脊椎動物!

YouTube受けしそうな高スペックな生物です笑。実際ニュースやまとめサイトでも数多く取り上げられています。サメが人を襲った以外の理由でここまで一般の話題になるのもなかなか珍しいかもしれません。

推定寿命400年以上、水温0度の極寒の海で暮らす巨大ザメはどんな生物でしょうか。動画で話した内容を一部補足しつつ深堀していきます。

目次:
【基本情報】
【世界一泳ぐのが遅い生物】
【世界一寿命の長い脊椎動物】
【何故こんなに長生きなのか?】
【まとめ】

 

【基本情報】
ニシオンデンザメはツノザメ目オンデンザメ科オンデンザメ属に分類されるサメです。多くのツノザメ目のサメが背鰭に鱗が変形してできた鋭い棘をもっているのですが、ニシオンデンザメにはそれがありません。

ちなみに、ニシというのは大西洋のニシです。日本近海にも生息しているオンデンザメというかなりよく似た種がいるのですが、ニシオンデンザメは大西洋版というわけです。ほかにもニシレモンザメやニシネズミザメなど、同じ理由で和名がつけられた子たちがいます。

国立科学博物館の深海展で展示された液浸のオンデンザメ。デカすぎて全体を収められませんでした(笑)。

ニシオンデンザメは全長4mほどで、最大6~7mにまでなると言われている巨大ザメです。吻先が丸くて目が大きくてどこかおとぼけた顔をしているのですが、ほとんどのニシオンデンザメの目にはコペポーダ(カイアシ類)という細長い寄生虫がぶらさがっています。

イメージです。本当にこんな感じでぶら下がっています。

ある研究によれば、1500以上調べたニシオンデンザメのうち99%の目が寄生されていたそうです。ほぼ寄生されること前提で生きているっぽいです。

住んでいるのは大西洋北部や北極海など、水温がめちゃくちゃ低い海域です。英名はグリーンランドシャークと呼ばれます。まさに極寒の海に住むサメです。

この水温が0℃になる異常に低温な環境で生きていることが、これから説明する、泳ぐ速さとか寿命の話に密接にかかわってきます。

 

【世界一泳ぐのが遅い生物】
ニシオンデンザメは記録された生物の中で泳ぐのが最も遅い魚類です。

ここで注意したいのが、ニシオンデンザメよりも泳ぐスピードの絶対値が遅い生物がいます。仮にメダカとニシオンデンザメがレースしたらニシオンデンザメが勝つと思います。

そうではなくて、体の大きさの有利不利を差し引いた場合、ニシオンデンザメが一番遅い魚なんです。

一応解説します。水棲動物は基本的に大きさが大きいほど早く泳ぎます。縦軸を泳ぐ速さ、横軸を体のサイズにしてグラフを描き、そこに色々な動物のデータをプロットすると、おおよそ右肩上がりのプロットになります。この傾向から突出している生物が「大きさの有利不利を差し引いて速い・ないし遅い」わけです。

上の図はイメージしやすくするために僕がなんとなくで作ったグラフなので何か具体的なデータに基づいたものではないですが、意味は伝わると思います。ニシオンデンザメは、あくまでイメージですが、このグラフで言えば右下のゾーンに位置しているわけです。

何故ニシオンデンザメはここまで遅いのか。それはニシオンデンザメが水温0度に近いとんでもない低温環境にいることが関わってきます。

以前にホホジロザメの泳ぎの速さを解説する動画でも少し触れましたが、早く泳ぐには尾鰭を速く動かす必要があります。そしてそのためには筋肉を速くに動く必要があり、更にそのためには化学反応が活発に起こる必要があります。そして化学反応は分子のぶつかり合いであり、それが活発に起こるためには体温が高いほど有利です。

以前の動画はこちら↓↓↓

ところが、ニシオンデンザメはとてつもない低水温に適応した生物なので、代謝速度がとてつもなく遅いのです。それによって筋肉を動かすにも異様にゆっくりになり、結果とてつもなく泳ぐのが遅くなるわけです。

ニシオンデンザメが尾鰭を一振り、つまり左から右に振ってまた左に戻して、という風に尾鰭を一回に振るのに、なんと8秒かかります。イメージがつかない方は僕の動画で観るか、水族館で実際にサメを観察するなどしながら、8秒間数えてみてください。ニシオンデンザメがどれほどまでにのんびりした動きなのかが分かると思います。

尾鰭の一振りに8秒間というある意味驚異的な動きの結果、ニシオンデンザメの遊泳速度はたったの時速800m。5mクラスの巨体が、人間が普通に歩く速度の6分の1程度で動いているわけです。

ちなみにニシオンデンザメと同じくらい大きいイタチザメが時速2.5㎞ほど、サイズが同じくらいでかつ体温も高いホホジロザメが時速8㎞ほどなので、サメの中でもかなり遅いことが分かります。

 

【世界一寿命の長い脊椎動物】
ニシオンデンザメは近年の研究で、推定年齢が400歳近くだったと明らかになりました。

これ自体かなり話題になったので知っている人も多いと思うのですが、そもそもどうやって調べたのかなどをこれから説明します。

硬骨魚の年齢を調べる際には耳石というカルシウム結晶で年齢測定を行います。

ですが、一部の魚(マンボウなど)とサメの仲間はこの耳石がありません。そのため、サメの年齢推定は脊椎骨にある年輪のようなもので行ってきたのですが、これが正確に年齢を表すのか微妙で、しかも一部のサメでは確認すること自体できません。ニシオンデンザメもその一種です。

ニシオンデンザメは記録計を使った観察で、1年に1cm程度しか成長しないことが分かっていたので、5~6mまで成長する彼らがかなり長生きだろうという推測はあったんですが、具体的な年齢を特定できていなかったのです。

それが炭素の放射性同位体を使った年代測定により近年明らかになりました。

ここからは僕も専門じゃないので超ざっくりとした説明になります。

炭素などの元素には安定したもの、安定同位体と、放射線を出しながら崩壊していくもの、放射性同位体があります。

この放射性同位体が安定したものになろうと半分ずつ崩壊していくのですが、その半分が崩壊するまでの期間を半減期と呼びます。この半減期が同位体によって異なり、中には数千年とか100万年単位のものもあります。この放射性同位体の状態と半減期からものの年代を調べるわけです。

こうした放射性同位体は地球がいつできたのかとか古代遺跡の年代とかを測定するのに用いられてきましたが、ニシオンデンザメの水晶体を調べるのにこの方法が用いられました。

基本的に生物の体は何も変わっていないように見えて細胞が生まれ変わったり物質が移動したりして生まれてから死ぬまで色々流れていきます。しかし、水晶体は生まれてから死ぬまで変化しないので、これを調べれば、いつ生まれたのかざっくりではありますが特定できる、というわけです。

そしてその結果、調査された18尾のニシオンデンザメの平均年齢は少なく見積もっても272歳。全長5mの雌は392歳であることが分かりました。

この計算方法には120年ほど誤差が生じるらしいですが、少なく見積もった平均だけで、それまでの脊椎動物の最長記録ホッキョククジラの211歳を超えています。

ちなみに成熟する前にかかる年数はおよそ150年ほどと推定されます。金さん・銀さんを超える年齢になってからようやくイチャイチャできるようになるわけです。もう完全に次元が違います・・・。

計算通りなら5mの雌が生まれたのは約400年前。日本では徳川幕府ができるあたりで、ヨーロッパでは三十年戦争の時代です。日本史・世界史選択の受験生の方は「ああ、この時代にあのニシオンデンザメが生まれたのか」と思っていただけると勉強がはかどるのではないでしょうか。

 

【何故こんなに長生きなのか?】
一言で表せば「寒すぎてデカすぎる」。これが理由です。

先ほども言った通り、ニシオンデンザメは超低温環境に住んでいます。ここで生物が進化を通してとる対策は極端に分ければ二つです。

一つはバクバク餌を食いまくったり羽毛とか熱交換システムなどの体内構造を発達させて体温を高く保つ方法です。ペンギンなどがこの方法をとっているので、ここでは仮にペンギンスタイルと呼びましょう。

もう一つは体温を無理に上げようとせず低温環境に体を適応させて代謝をグッと落とす。これをニシオンデンスタイルと呼びます。

前者のペンギンスタイルはエネルギーがかなり必要で大変ですが、その分早く成長して、早く成熟できます。後者のニシオンデンスタイルは、エネルギーは少なくて済むのですが、成長にとてつもない時間がかかります。先ほど見た通り、成熟まで150年近くかかるんです。

大きい生物が成熟するというだけでまず時間がかかるのに、加えて超低体温のため細胞レベルで体の働きが遅くなって成長に時間がかかり、結果かなり長生きになります。もちろんまだ研究途中のはずなので確実なことは言えませんが、特殊な未知の酵素などで長寿を獲得しているというより、ただ単に成長に時間がかかりまくって400歳になっているということのようです。

ただ、「400歳生きる!」と寿命だけで考えると、「ニシオンデンザメ長生きで羨ましい~」なんて思うかもしれません。果たしてそうなのか・・・。

ここからちょっとややこしい話をぶっこんでいくので、頑張ってついてきてください笑

時間と言われると、宇宙全体を通して共通の絶対的なもののように感じます。「時間だけは平等だ。1日はみんな24時間なんだからお前も頑張れ」みたいなことを言われた人もいるかもしれません。

ただ、生物にとっての時間というのは必ずしも一緒ではないんです。

そもそも生物にとっての時間とは何でしょう。

人間は1個体ずつ、一般的な言い方をすれば一人一人を大事にする社会にいるので「産まれてから老衰で死ぬまで時間」を寿命と呼んで大切にします。ただ、僕たち個体はあくまで遺伝子が自己複製するための乗り物でしかないのです。冷徹な言い方をすれば、個体が長生きするかどうか、まして幸福を感じるかどうかなど関係ありません(無論「幸福」という概念を持つ生物がどの程度いるのかも謎です)。

しかも自然界で老衰死する生物なんてまずいません。弱った時点で食われる容赦のない世界です。仮に老いて動けなくなるまで生きられても、自然死する前に他の生き物の糧になります。

そのため生物にとって最も意味のある時間で、かつ議論しやすいのは、産まれてから子孫を残すまでの時間(世代時間)、ということになります。

ちなみに念のため言いますが、不妊症患者や同性愛者、その他恋愛に関心がないなどの理由で子孫を残さない方への差別的意図は一切ありません。本当に念のためですが、一応断言しておきます。

この子孫を残すまでの期間、世代時間は、その動物の大きさと体温(正確に言えばその体温に影響される代謝量)によって影響を受けます。

詳しい理論を説明すると恐ろしいことになるのでざっくり話しますが、体の大きな生物ほど成長に時間がかかるし、代謝速度が速い生物の方が早く成長するのです。なので、同じくらいのサイズであれば、恒温動物の方が変温動物よりも早く成熟します。また、変温動物でも、水温が高い海域の魚の方が早く孵化したり育ったりします。

深海ザメの代表として人気の高いラブカは妊娠期間が3年にもなるということで話題になっていますが、あれも深海の低水温が原因の一つではないかと言われています。

ラブカ。妊娠期間が3年にも及ぶとされ、現在知られている中で最長である。

体の大きさと体温により、生物によって世代時間が異なるのであれば、その生物にとっての時間の重みはかなり異なるはずです。体重が増えて体温が高くなると、その生物の時間の重みというのは増します。逆に体温が低く体が大きくなれば世代時間が延びるので時間の重みが少なくなります。

この記事を読んでいる方が成人以上なら共感される気がするのですが、子供になると濃厚だった時間が、大人になると薄っぺらくなってどんどん時が過ぎていくように感じないでしょうか。あれは、子供から大人になっても体温が大して変わっていないのに体のサイズが大きくなって、しかも代謝量も落ちているので起きる現象らしいです。もちろん社会的な立場などによる感じ方の違いもあるかもしれないですが、一応科学的な裏付けがあるわけですね。

そうなるとニシオンデンザメの時間の感覚ってなかなかなことになりますよね。全長6m、体重1トンで体温0℃に近い巨大ザメは、とてつもない時間感覚で生きていることになります。

実際に体重60㎏、体温36℃の人間と比べたとき、時間の濃さは47倍の差があるそうです。僕たちの1日が、ニシオンデンザメの1か月分くらいの重みがあるわけです。

ただ単純に年齢だけ比べると長い方がいいってなりますが、生物学的な視点で見つめなおすと、色々考えさせられますよね。

ニシオンデンザメが仮に高度な知能を持っていたら、僕たちは47倍速で動き回ってすぐに死んじゃうはかない存在に見えるはずです。逆に僕たちの1日がニシオンデンザメの1か月に相当するって思えば、1日を無駄せずに頑張ろうって思えるかもしれないです。

 

【まとめ】
6mを超える400歳の巨大ザメ。そう聞くだけですでに面白いですが、ニシオンデンザメは単に巨大で長生きなだけではなく、生物学的に大変ユニークな存在です。今回僕もこの記事と動画のために調べなおしてみて、非常に面白い生物だと改めて感じました。

本記事でニシオンデンザメが如何に驚異的な生物か多少分かっていただけたと信じたいですが、説明の背後にあるメカニズムをだいぶ省略して紹介したので、ちょっと掘り下げきれなかった感もあります。

もし物足りないとか分かりにくいという方がいたら、この記事のタネ本である『進化の法則は北極のサメが知っていた』(渡辺佑基さん著)や、そもそものニュースのきっかけになったニールセン博士の論文『The Greenland shark (Somniosus microcephalus) Diet, tracking and radiocarbon age estimate reveal the world’s oldest vertebrate』をぜひ読んでみてください!

今後のサメの面白さを伝えていきたいと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。

 

※今回の記事は下記動画でお話しした内容を加筆修正したものです。YouTubeのチャンネル登録もぜひよろしくお願いいたします。

【Writer Profile】

サメ社会学者Ricky

1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国ポートランド州立大学へ留学。

社会人として働きながら、サメの生態や環境問題などについて情報発信。主な発信分野はサメの生態、水産業、動物倫理、進化生物学など。

本HP『World of Sharks』での運営のほか、Youtube動画配信、トーク・プレゼンイベント登壇、水族館ボランティアなどで活動。

メールでのお問い合わせ、質問などはコチラ!
shark.sociology.ricky@gmail.com

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