水族館そのものが欲しいのでサンタさんにお願いしてみた

親愛なるサンタさんへ

私は幼い時からあなたが実在する可能性の極めて低い魔人の類であると思ってきました。あなたの存在を信じ込ませて躾に利用したり、疑うことを知らない子供の方が可愛いと愛でる親御さんたちの意見にはいまだに納得できません。あなたや神、前世などの非合理で証拠のない存在を信じる方が美徳であるという考え方は嘆かわしいものであり、あなたのような存在を信じないと世界はつまらないと思っている人間は無知の極みだと考えています。

ただ、もしあなたが本当に実在するなら、喉から手が出るほど欲しいクリスマスプレゼントがあるのでお願いさせて下さい。

僕に水族館を下さい。

サンタさん、僕は水族館が好きです。水族館でサメを見ている時間が幸せなのです。そこに暮らす生き物について仲間と語り合い、世に発信することが僕の楽しみなのです。

もちろん、水族館は切り取られた自然であることは理解しています。無限に広がると錯覚しそうな広さの大海原を泳ぐサメたちの様子が本当の姿だと分かっています。水族館で何度も見たサメでも、野生で見たときの感動と興奮は桁違いです。

しかし、謎に満ちた生物を研究し、世にその面白さや価値を発信していく場所として水族館は価値のある場所だと僕は信じています。水族館は人が作ったシステムながら、自然と人とをつなぐ役割を持った存在なのです。そんな水族館が私はやはり好きなのです。

サンタさん、あなたが私に水族館をくれたら、こんな水族館を作りたいです。只くださいというのも不躾なので、あなたが水族館をプレゼントしてくれたらこんな風にしたいという希望を述べておきます。

 

【熱心に研究を行い、その成果を世に出していく教育的な水族館】
サンタさん、未だに多く人が「水族館に一人で行く」と言うと違和感を感じるようです。どうも、カップルや家族で行く娯楽施設と思っているようです。

勿論娯楽としていくことが悪いわけではないですし、魚やサメ、僕が好きな海洋生物たちが癒しや喜びを人に与えているのだとしたらそれは喜ばしいことです。

しかし、やはり水族館は研究施設であるべきだと思うのです。莫大なお金と労力をかけて、自然で生きる動植物(中には絶滅の危機にある生き物もいる!)を人口飼育環境に置く行いは、それなりの社会的ミッションがあってこそ正当化されるのではないかと思います、環境保全や動物福祉(または倫理)の議論が盛んな現代であればなおさらです。

生物を研究することは僕たちの存在そのものの起源に迫ることであり、どのような文明ができどのような技術が発達しようとも続けるべき、哲学に匹敵する、あるいはそれ以上の行為ではないでしょうか。サンタさんがどうか知りませんが、僕たち人間も生物ですからね。

そして、その研究成果をもっと世に出していくべきだと思うのです。

今年2019年の9月、富山県の魚津水族館でドチザメ(Triakis scyllium)が単為生殖をおこなったことが確認されたとニュースになりました。

全長1m以下程度のドチザメ。

サンタさんは恐らく不老不死の魔人なので生殖とは無縁でしょう。なので一応簡単に説明すると、単為生殖とは雌が雄の精子を使わずに子供を産んだりすることです。

ちなみに、この時期多くの日本人が「クリスマスに彼氏・彼女が欲しい」というプレゼントのお願いをするかと思います。どうしても難しい場合は、単為生殖する能力を与えるのも趣があるかもしれません。

こうした面白い事例はニュースになれば人々の話題に上がりますが、水族館自体が館内展示で発信している度合いがまだまだ低い気がします。「まだ研究中なので」、「業務が忙しいので」、色々事情があるのかもしれません。しかし、もう少し積極姿勢のある施設が沢山あってもいい気がします。研究自体は非常に素晴らしいものが数多くあるはずですが、それが表に出ていない気がするのです。

先ほどの単為生殖で言えば、世界で初めて単為生殖が確認されたのはウチワシュモクザメ(Sphyrna tiburo)ですが、このサメが展示されているある水族館には、その驚異的発見に関する解説などは特にありません。

サンタさん、各館・園ごとに理由があるかもしれませんが、もったいないことだと思いませんか?単為生殖自体はサメ以外でも観察され、むしろ哺乳類以外の脊椎動物で最後に確認されたのがサメですが、いずれにしろ興味深い事象です。生物の進化を解き明かす重要なテーマとしてもっと取り上げられてもいい気がするのですが、いかがでしょうか。

僕が水族館を持った暁には、世に発信し学びを提供することをミッションにし、それを徹底した水族館にしたいと思っています。

 

【人と自然とのつながりを伝えていく水族館】
サンタさんは北国の出身だと勝手に思っていますが、そちらの自然はどのようなものでしょうか。

現在、僕たちは多くの環境問題に直面しています。それらの解決をどうすればいいのか様々な議論が行われていますが、なかなか前へ進みません。

僕自身、開発や環境の改変の恩恵にあずかっていますが、自然環境は僕たちの生きる基盤です。利用し時に壊すことはあっても、それら無しでは生きていけないので、やはり守る必要があるのです。

僕たちの飲み水は水道管に依存し、食べ物は誰かが加工・調理してくれています。しかし、そのすべての根源は自然です。空気が変わってしまえば僕たちは呼吸ができず、水が汚れれば生きていけません。自然を守ることは全てではないですが、他のすべてを守るための支えなのです。

経済と環境どちらを優先するかと言う議論を耳にしますが、ナンセンスです。経済は、限りない人間の欲望をうまく満たすように限りある資源を回していくかを考えることです。経済を考えるうえで根本的な資源である自然環境のことを考えないのは、収入や支出がいくらなのかという考えなしに家計簿をつけようとするに等しいはずです。

サンタさん、こうした問題へ解決をプレゼントとしてお願いしたいところですが、いくらあなたが空飛ぶトナカイという超獣を操る家宅侵入のプロでも、なかなか難しいでしょう。

しかし、自然とのつながりを人々が感じることは、その第一歩であるように思うのです。

行き過ぎた開発や汚染物質の垂れ流し、希少種の乱獲や密猟、外来種を野放しにすることでの生態系の破壊、ずさんな水産資源管理・・・。これらの問題の根本は「環境を意図的に破壊しようともくろむ邪悪な存在」がいるというよりも、自分たちが何をやっているのか理解できていない人(あるいは理解できるけど目を背けている人)が知らず知らずにやってしまう行為の集積ではないでしょうか。

つまり、自分の生活や発展が何に支えられているのか分かっていないのです。分かっていないので、その土台を修復不可能なまでにめちゃめちゃにしても気づかない。自然という土台は利用してもいいし見て楽しむこともできるし、壊し過ぎなければ勝手に再生してくれます。しかし、多くの人が土台を壊して別の何かを作るのに一生懸命すぎて、壊し過ぎた土台から自分が地獄に真っ逆さまに落ちるかもしれないと気づけないのです。

自然に住む生物や彼らが暮らす環境を部分的にでも見せる水族館は、自然と直に向き合う機会が少ない現代人に、僕たちが自然とつながっていることを思い出させる場所として機能できるのではないでしょうか。

アクアマリンふくしまのユーラシアカワウソ。生息環境を再現した大きな飼育スペースや二ホンカワウソ絶滅に関する丁寧な解説が印象的である。

現在、生物の生態を解説する掲示やショーは数多くありますが、僕たちが普段食べている魚も海を泳ぐ野生動物であること、彼らがどんなふうに僕たちの食卓に届いているのか、彼らの資源状態はどんなものか、僕たちに何ができるのか・・・。これらを訴える施設はまだまだ数少ないです。

サンタさん、あなたから頂いた水族館をこのように僕が仕上げたとして、「需要がない」と周りから言われるかもしれません。人々は水の中を生き物が泳ぐ別世界を部分的に楽しみ、イルミネーションや可愛い生き物の写真をSNSで自慢できれば満足なのかもしれません。

しかし、需要がないとしたら、その需要がないことこそ問題だと思うのです。それを変えるための手段として、水族館が使えないかと思うのです。

 

サンタさん、時間がかかるのであれば今年でなくても結構です。僕に水族館をいただけないでしょうか。

【Writer Profile】

サメ社会学者Ricky

1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国ポートランド州立大学へ留学。

社会人として働きながら、サメの生態や環境問題などについて情報発信。主な発信分野はサメの生態、水産業、動物倫理、進化生物学など。

本HP『World of Sharks』での運営のほか、Youtube動画配信、トーク・プレゼンイベント登壇、水族館ボランティアなどで活動。

メールでのお問い合わせ、質問などはコチラ!
shark.sociology.ricky@gmail.com

 

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