アクアワールド大洗にジンベエザメが来る? 

2019年12月、サメ好きとしては無視できないニュースが飛び込んできた。

茨城県の大井川知事が、アクアワールド茨城県大洗水族館(以下アクアワールド大洗)でジンベエザメ(Rhincodon typus)を飼育する意向を発表した。

各報道機関の情報をまとめれば、知事は130億円を投じ、水量8000トンにも及ぶジンベエザメ終生飼育用の新たな施設ジンベエザメ館(仮称)を建設予定で、2022年ごろまでに完成させる計画らしい。

今回はこの大洗ジンベエ展示計画について僕なりに解説していく。

 

【ジンベエザメ展示の理由】
ジンベエザメ館計画を実行する理由としてて、茨城県は大きく三つをあげいる。

1. サメ日本一の強みを活かす
2. ジンベエが一番人気である
3. 東日本で唯一の展示

まず1について。サメ好きには良く知られたことだが、アクアワールド大洗はサメ飼育においてはトップクラスの水族館だ。アクアワールド大洗のサメ飼育種数は約60種で日本の水族館の中では一番多い。全世界に現在知られているサメは約500種なので、10分の1以上がアクアワールド大洗で観察できることになる。その中には他の館では見られない外国産の珍しいサメも多く含まれる。

タテスジトラザメ。南アフリカ産のサメで、他ではなかなかお目にかかれない。

次に2についてだが、これは11~12月にアクアワールド大洗で実施されたアンケートに基づく。564人に対して実施されたアンケートにおいて、約6割の来館者がジンベエザメの展示を希望したとのこと。確かにジンベエザメは巨大だが愛らしく「人食いザメ」という世間一般の歪んだイメージからもかけ離れているし、斑点模様が並ぶ見た目も特徴的であり、非サメ好きからの人気も高い。

3について、現在ジンベエザメを飼育しているのは大阪海遊館(大阪府)、のとじま水族館(石川県)、いおワールドかごしま水族館(鹿児島)、沖縄美ら海水族館(沖縄県)の4館だけであり、アクアワールド大洗が常設展示に成功すれば東日本では唯一のジンベエ展示になる。

ちなみに1年前の2018年、横浜・八景島シーパラダイスは3~4m程度の小さなジンベエザメ(最大10m以上になる成魚と比べれば小さい)を既存の大水槽で展示していた。こちらも「東日本唯一の展示」として話題だったが、残念ながらこの個体は亡くなってしまった。八景島の意向としてはある程度成長したら海に返す予定だったらしいが、どちらにせよジンベエを飼うには小さい水槽に入れて死亡させてしまったことについて、Twitterでは批判の声もあがっていた。

八景島シーパラダイスに展示されていたジンベエザメ。12月にはサンタに扮したダイバーから餌をもらっていた。

今回の大洗の計画では水量8000トンとしており、終生飼育を目指す方向らしい。現在8mを超える個体を2尾飼育している美ら海水族館の「黒潮の海」大水槽の水量は約7500トンなので、計画通りにいけば美ら海以上の水槽が出来上がることになる。かなり見ごたえのある展示になることは間違いない。

美ら海「黒潮の海」水槽。人間と比べるとその大きさが良くわかる。

 

 

【他のサメを展示すべきか?】
このニュースを聞いて楽しみだという人もいるが、僕が知る水族館好きには「サメでトップレベルの水族館なのだから、他の館で飼育されているジンベエザメではなく他の種を飼育してほしい」と言う人もいる。

このジンベエザメ館計画が発表される一か月前に葛西臨海水族園でアオザメ(Isurus oxyrinchus)が1日限定で飼育され大きく話題になった。そのあとのジンベエザメ館のニュースなので、「アオザメなど未だかつて誰も飼育に成功してい種に挑戦してほしい」という考えに至ったのだと思う。

葛西臨海水族園に展示されたアオザメ ©繁田穂波

ジンベエザメの長期飼育を実現させた美ら海水族館でも、ホホジロザメ(Carcharodon carcharias)の飼育はわずかな日数しか続かなかった。確かにシロワニ(Carcharias taurus)以外のネズミザメ目の長期飼育が実現すれば世界的な快挙であることは間違いない。

しかし、勘違いしてほしくないのだが、ジンベエザメは他の館でも飼育されている生物ではあるが、その生態は依然謎に満ちている驚異的なサメであり、飼育して研究する価値は十分にあるということだ。

ジンベエザメは全長10m以上に達する世界で最も大きい魚類であるが、ここまで巨大な生物がどこで交尾してどこで子供を産み、どこでその子供たちがどのように育っているのか、ほとんど分かっていないのだ。

1995年に台湾で漁獲された全長10.6m、体重16トンの妊娠個体から300尾の胎仔が見つかり、恐らくかなりの数を一度に産む卵黄依存型胎生ではないだろうか、ということが分かっているくらいで、未だ彼らの生殖には不明な点が多い。

アクアワールド大洗はサメが強みの水族館と述べたが、それは種類数に限った話ではない。ブラウンシャイシャーク(Haploblepharus fuscus)やアラビアンカーペットシャーク(Chiloscyllium arabicum)など珍しいサメの繁殖に次々に成功した水族館であり、飼育が難しいイモリザメ(Parmaturus pilosus)という深海ザメも5000日飼育した実績を持つ。アクアワールド大洗のジンベエザメ飼育が神秘の巨大ザメの謎に迫る貢献をしてくれるかもしれない。

 

【何卒研究にも貢献を】
逆に言えば、ジンベエザメを飼育するのであればそれ相応の研究を実施して頂きたいと僕は考える。

建設通信新聞や日経新聞で報道されている大井川知事のコメントを見る限り、“展示後は東日本で唯一のジンベエザメを展示している水族館ということでPRもできる、” “非常にわかりやすいランドマーク的な施設ができる”など、誘客促進にかかわる内容ばかり目立つ。あくまで知事のコメントなので仕方ないかもしれないが、もう少し研究や啓発への意気込みも関係者から聞きたいところだ。

ジンベエザメは謎多きサメであるが、IUCNでEN(絶滅危惧)にランクされ、CITES(ワシントン条約)でも附属書IIに記載された、絶滅が心配される生物である。先ほどの飼育の意義を説いておいて矛盾して聞こえるかもしれないが、観光客を集めるため“だけ”に気軽に飼育していい生物ではない。

もちろん飼育することで彼らの生態が今以上に明らかになり、ジンベエザメを絶滅から救う有効な策が見つかるかもしれない。その点で生殖にかかわる研究は特に重要だ。ジンベエザメは数が減っていて小型化してしまっているのではないかという心配もあるが、何度も言うように分かっていないことが多いのだ。

どうせ大規模な新施設を建造してまで飼育するのであれば、研究成果においてもトップクラスのジンベエザメ飼育を目指してほしいと僕は願う。

 

【参考文献】
茨城県 『アクアワールド茨城県大洗水族館ジンベエザメ展示について
建設通信新聞 『ジンベエザメ館を増築/茨城県の大洗水族館』 (2019年12月30日アクセス)
ナショナルジオグラフィック 『ジンベエザメが小型化と研究報告』(2019年12月30日アクセス)
日本経済新聞 『アクアワールド大洗、ジンベエザメ展示へ 22年度末にも』 (2019年12月30日アクセス)

【Writer Profile】

サメ社会学者Ricky

1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国ポートランド州立大学へ留学。

社会人として働きながら、サメの生態や環境問題などについて情報発信。主な発信分野はサメの生態、水産業、動物倫理、進化生物学など。

本HP『World of Sharks』での運営のほか、Youtube動画配信、トーク・プレゼンイベント登壇、水族館ボランティアなどで活動。

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shark.sociology.ricky@gmail.com

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