分類学とは?生き物を分類する意義とは?

「サメに詳しい人」と聞いてあなたが思い浮かべるのはどんな人でしょうか。

「Rickyです!」と即答してくれたら嬉しいのですが、という本音は置いておいて笑

たいてい世の中で言う「生き物に詳しい人」というのは、多くの生き物の名前を知っていたり、魚や虫などの写真を見せたときに「これは●●」という風に名前を即答できる人だと思います(どこの小学校にも昆虫博士少年がいましたよね)。

では、誰がどんな規則に沿って名前を付けているのでしょう。その根本となる学問が分類学です。

分類学って聞くと「学名とか系統図とか色々難しそう」とか思うかもしれませんが、素人にも読みやすい入門書を見つけました。それがこちら!

『魚類分類学のすすめ ~あなたも新種を見つけてみませんか~』といういかにも入門書っぽいタイトルの本です。ちなみに表紙に描かれているのは著者が分類に携わったコチという魚の絵です。

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今回この本にそって「分類学」について簡単に語っていきます。

目次:
【分類学とは何か】
【分類学の意義】
【進化と分類学】
【進化から見えてくること】
【まとめ】

 

 

【分類学とは何か】
簡単に分類学を説明するなら生き物をグループ分けして名前を付ける学問です。

『魚類分類学のすすめ』では分類学についてこのように言っています。

“分類学とは、種・グループを正しく類別し、これらに対する共通認識を持つために名前(学名)をつけていく学問、ということができるだろう(p8)”

僕たちの周りにはいろんな生き物がいます。海に中だけを見ても、深海で暮らすラブカや川にも入ってくるオオメジロザメ、サメ以外なら変幻自裁に色を変えるコブシメや音を発してコミュニケーションをとるバンドウイルカなど、本当に多種多様、外見も体の構造も様々な生物たちで地球は溢れています。

コチラを威嚇するように見つめながら瞬時に色を変え続けるコブシメ。

そうした生物たちでも、体の構造や見た目が近い仲間たちがいます。その仲間たちを、近いもの同士グループにまとめていくわけです。

グループの最小単位が種(species)です。複数の種で似た者同士を集めたのを属(genus)、似た属をさらにまとめたのが科(family)、科を集めたものを目(order)といいます。

分かりやすい言えば住所みたいなものです。例えば北海道大学水産学部の場所を指し示すとき、北海道→函館市→港町→3丁目→1−1のように、段々と狭まった範囲に特定されていきます。

生物も同じように、界→門→綱→目→科→属→種という段階に分けられていきます。界は住所で言うなら国レベルの大きな塊です(ちょうど界のことを英語でkingdomといいます)。動物の国なのか?植物の国なのか?といった細胞レベルでのグループ分けです。

そのあとの門は都道府県です。一つの国の中で一番大きなまとまりです。動物で言えば、どのような内部形態をしているかで分けられます。つまり、呼吸の仕方、栄養の取り方、生殖の仕方などなどを決める根本構造で分類されるわけです。魚やヒトの脊索動物門、昆虫やエビなどの節足動物門、ヒトデやウニなどの棘皮動物門などのグループがあります。

そこから段々大きなグループから細かいグループに分けられていき、たとえはホホジロザメなら以下のように分類されます。

なお、亜綱というのが間に挟まっていますが、今回は詳細省きます。簡単に言えば、ホホジロザメは動物の仲間で、脊索を持つ(さらに言えば脊椎を持つ)動物で、骨格のほとんどが軟骨でできた魚のグループ、というわけです。

こうしてどんどん細かいグループ分けをしていき、最小単位である種に学名(scientific name)という、どの国でも共通で使える唯一の名前をつけることで整理していくのが分類学の仕事です。

 

 

【分類学の意義】
では分類学はどうして必要なのでしょうか。

著者の今村氏は「結果の再現性」というところに注目して分類学の意義を説いています。

どういうことか。生物を研究する中で、僕たちは色々な観察や実験を行います。そしてその結果を論文して「マモンツキテンジクザメをこれくらいの低酸素環境に置いたら、このような変化が体に起きました」とか「アカシュモクザメの胎仔の体を調べたらこんな化学物質がこれだけ見つかりました」などの発表をするわけです。

歩くサメ、マモンツキテンジクザメ。何故この子がこんなに可愛いかも誰か研究で明かしてほしいところ。

ここで、マモンツキテンジクザメ(Hemiscyllium ocellatum)とかアカシュモクザメ(Sphyrna lewini)という名前が出てきたことからすでに分かるように、ちゃんとした研究結果をまとめるには、研究の対象となる生物の名前が必要不可欠です。

加えて、論文の内容が正しいかを検証し、さらなる発見のために追加で実験を行うためには、同じ生物を間違いなく用意する必要があります。また、違う動物で同じ結果が得られるかを検証するなら、確実に違う種で実験しなければなりません。「すみません、条件だけ変えて別の実験したかったんですけど、全然違う海域に住む全然違う種類のシュモクザメを間違って使ってました!」では大変なわけです。

今村氏はこのように述べています。

“仮に、「なんだかよくわからない生物を使って、こんな実験をしたら、こんな結果になった」という論文があったとしよう。科学論文で最も重要なことの一つに、結果の再現性があることがあげられる。(中略)もし材料に何を使ったかがはっきりしなければ、同じ材料で実験をすることは困難で、再現性は保証できない。科学論文としては致命的である(p23)”

こうしたことを考えると、分類学というのは、生物学のあらゆる分野の前提を支える非常に重要な学問といえるでしょう。

 

 

【進化と分類学】
ここからは『魚類分類学のすすめ』の内容から少し離れますが、僕なりにもう一つ、分類学の意義を紹介したいです。

分類学は何故大切か?それは、「進化」という生物にとって非常に本質的な現象の跡を辿る学問でもあるからです。

先ほど分類は似た者同士をグループ分けしていくと言いましたが、それは外見が似ているもの同士を闇雲に集めていく作業ではありません。細胞レベル(界)→内部構造(門)というように、より根源的で簡単に橋渡しができなそうな大きな隔たりから分けていきます。

例えば、サメとイルカは外見が非常に似ています。流線形の体つき、特徴的な背鰭、胸鰭など、シルエットだけ見れば近い分類でもおかしくなさそうです。

ツマグロです。顔つきや鰓の有無、尾鰭の向きなど違えど、シルエットはイルカに近いものを感じます。

ですが、サメとイルカはかなり離れた分類の、全く異なる生物です。何故なら、内部構造が根本的に異なるからです。鰓呼吸か肺呼吸か、硬骨か軟骨か、体のボディプランが全く違います(ちなみに、写真で例に出したツマグロは胎盤を形成するので生殖方法が哺乳類に似ていますが、起源が異なるものでありイルカとの類縁関係を示すものではありません)。

こうしたボディプランの違いは、サメとイルカが進化で辿った道が異なるために現れます。サメはデボン紀か石灰紀あたりのある時点で誕生してからずっと海で暮らしてきましたが、イルカは一度陸上に上がった魚が長い時を経て哺乳類になった後、新生代あたりでまた海に戻ってきて適応した生物です。

サメと同じく大型捕食者として生きるため外見はサメに似ていきましたが、再び鰓を獲得するような完全なボディプラン変更はもうできませんでした。そこで、鼻孔を頭の上にもってくるなど、サメから見れば無理やりですがまだやりやすい構造変化で水中生活に適応していきました(ちなみに、サメやイルカの体つきの類似など、分類学上異なる生物が生存戦略が似ているために似た特徴を獲得していくことを収斂進化と呼びます)。

分類学でのグループ分けについて思いを巡らせると、このように進化の道筋が見えてきます。

 

【進化から見えてくること】
「だから何?進化なんて興味ない」という人もいるかもしれません(いては困りますが笑)。しかし、進化という現象の理解を深めることは、世界の認識に影響を及ぼす重要なことです。

例えば、進化によって生物は多様化して人類もその過程で誕生したという説は「人間は神によって作られた」などの妄想から僕たちを解放します。人類の起源について、大昔の人が作ったフィクションに基づいて語られるデタラメより、はるかに説得力のある説明を与えてくれるからです。多くの人が神を信じ、政治活動にまで宗教が影響している現代社会において、きわめて重要な議論ではないでしょうか。

また、世間には「魚は動物ではない」という謎の考えを持った人が大勢います。しかし、分類学と進化の観点からすればあり得ないわけです。門レベルで言えば僕たちは魚の仲間です。それどころか、僕たちが陸上でウホウホした挙句に地球の支配者になる最初の始まりは、肉鰭類という魚の仲間(と呼んでいいか微妙な中間点)が陸上に進出したことから始まったのです。こうした議論は、“動物”愛護など現代でホットなトピックの議論に新しい視点をもたらすのではないでしょうか。

分類学は進化の道筋を明らかにし、そして進化は僕たちの起源や現代認識に関わる重要な知見である。ならば、分類学が重要でないわけがないですね。

 

【まとめ】
世間的には僕みたいな生き物好きはマイナーだとされています。多くの人からすれば、水族館で子供が「ニモ~」と言いながら指を指しているのがカクレクマノミだろうがクラウンアネモネフィッシュだろうがどうでもいいし、魚が動物かどうかは「個人の価値観」なわけです。

しかし、その生物が何の仲間でどんな名前で、それはどんな特徴からそう言えるのか、それは分類学に基づいています。そして、分類学は生物学の根幹を支える学問であり、進化という根源的な現象にも通ずる知見です。

そう考えると、「この魚の名前が正確にはどれだなんてどうでもいい」とか「魚が動物かどうかなんてどっちでもいい」とか言うのは、いささか考え物です。どっちでもいいわけがない。あなたの存在がどこから来たのかを探求する学問でもあるからです。

この魚の名前は?と気になった時、何の仲間か?どんな特徴があるか?など、少し深堀してみてください。もしかしたら、これまで見えてこなかった面白い発見があるかもしれませんよ。

 

 

【Writer Profile】

サメ社会学者Ricky

1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国ポートランド州立大学へ留学。

社会人として働きながら、サメの生態や環境問題などについて情報発信。主な発信分野はサメの生態、水産業、動物倫理、進化生物学など。

本HP『World of Sharks』での運営のほか、Youtube動画配信、トーク・プレゼンイベント登壇、水族館ボランティアなどで活動。

メールでのお問い合わせ、質問などはコチラ!
shark.sociology.ricky@gmail.com

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