ネズミザメは美味しいサメ?

ネズミザメというサメを聞いたことがあるでしょうか?

結構有名なサメなのでご存知だとは思いますし、知らない方も「モウカ」という名前を聞けばピンとくるかもしれません。

せっかく今年の干支がネズミなので、今回はネズミザメを紹介していきます!

 

目次:
【ネズミザメの分類】
【どこに住んでる?】
【体温が高いサメ?】
【モウカザメ】
【サメを食べてもいいの?】

 

【ネズミザメの分類】
ネズミザメ(Lamna ditropis)はネズミザメ目ネズミザメ科ネズミザメ属に分類されるサメです。これだけだとどんなサメなのか逆に伝わりにくいと思いますが、目レベルで言えばホホジロザメ(Carcharodon carcharias)、アオザメ(Isurus oxyrinchus)、シロワニ(Carcharodon carcharias)などに近い仲間です。

上野の国立科学博物館に展示されたホホジロザメ

たしかにこうしてホホジロザメの見た目を見ると、ネズミザメによく似ている気がします。ただし、ホホジロザメとネズミザメは歯の形状と尾鰭の付け根に明確な違いがあります。

まず歯について。ホホジロザメの歯が大きな三角形で縁がギザギザしているのに対し、ネズミザメの歯は体のわりに小さくて細長い歯をしており、副咬頭というチョコンとした可愛い突起が左右に出ています。

左がホホジロザメの歯、右がネズミザメの歯です。

ホホジロザメはオットセイなど一口で丸飲みにできないものを噛みちぎって食べるのに対し、ネズミザメはサケやニシンなど一口で食べられる魚を食べることが多いため、このような違いがあります。分類上近い仲間でも食性によって異なる歯を持っているわけですね。

次に尾鰭についてですが、尾鰭の付け根、正確には尾柄部と呼ばれる部分に、ホホジロザメは隆起線(キール)という盛り上がった線があります。ネズミザメもあるのですが、ホホジロザメのように1本だけではなく、目立つ隆起線の下にもう一本短いキールがあるのが特徴です。

ホホジロザメの尾鰭。尾鰭まで伸びる隆起した線があります。
ネズミザメの幼魚の尾鰭。目立つ隆起線の下に、よく見ると短い隆起線がもう一本あります。

 

 

【どこに住んでる?】
ネズミザメは北太平洋に住むサメで、ベーリング海やアラスカ、日本では北海道や東北など、どちらかといえば寒い海域に住んでいます。こうした海でサケを好んで食べているため、ネズミザメは英語ではサーモンシャーク(Salmon shark)と呼ばれます。

ただし、三重県などで確認された事例もあるそうで、南の方に入ってくることもあるようです。

鳥羽水族館によるネズミザメの紹介記事↓

ちなみに、大西洋側にはニシネズミザメ(Lamna nasus)というよく似た別種のサメがいます。日本では後述するように食用にもなっているネズミザメが有名でニシネズミザメの方がレアですが、ヨーロッパの図鑑を見るとニシネズミザメの方が載っていたりするので、もしかすると向こうではネズミザメがレア種として人気かもしれません。

 

【体温が高い】
ネズミザメは先述の通り寒い海域に住んでいます。海水温が低いと、基本的に変温動物は体の動きが細胞レベルで鈍くなり、泳ぐのが遅くなってしまいます(この辺はニシオンデンザメの解説でも紹介しました)。

実はネズミザメは体温を高く保つ特殊な機能を持っています。それが奇網と呼ばれる熱交換システムです。簡潔に言えば、静脈と動脈が隣り合うことにより、体温を維持しやすい構造になっているのです。

ブリやタイなど一般的な魚は周りの水温と体温がほぼ一緒になってしまうため、変温動物と呼ばれます。ところが、クロマグロなどごく一部の硬骨魚とネズミザメやホホジロザメなど一部のサメは、周りの水温より体温を高く保つことができます。

魚は鰓で呼吸する際に外部の海水で血液が冷やされてしまいます。ところが、ネズミザメたちは鰓から酸素を運ぶ血管と筋肉や内臓の活動で温まった血が流れる血管がくっついているので、内部で発生した熱を体温の維持に使えるんです。さらに、こうした魚たちは血合いも体の奥に入り込んでいるため、そこから発生した熱が体外に逃げにくいのです。

このような理由により、ネズミザメは寒い海でも獲物を速いスピードでおいかけることができるわけです。

 

【モウカザメ】
ネズミザメという名前ではなく「モウカザメ」なら知っている方もいるかもしれません。実はネズミザメはよく食用に出回っているサメなんですが、恐らく「ネズミ」というイメージが食品としてどうなのっていうことから、モウカザメという名前で流通しています。ほかにもモロザメ、ゴウシカなど色々な呼び名があるようです。沢山呼び名があること自体がいかにネズミザメが消費されているかの証ですね。

ネズミザメはほとんど気仙沼で水揚げされますが、新潟県上越をはじめ、色々なところで食べられています。僕も以前栃木県に住んでいましたが、ヨーカドーや地元スーパーでモウカザメのお肉が売っていました。

ではネズミザメのお肉は美味しいのでしょうか。ゲテモノのイメージで旨いです手が出しづらい人や、年齢層が上の方から「サメ肉は臭い」とだけ聞かされた方もいるかもしれません。しかし、実はネズミザメは美味しいんです。

そのお肉はクセがなくて淡泊な味わいです。そのままだと味気ないので、下味をつけたフライ、煮つけ、カレーとか中華とか味が濃い目の料理に合うと思います。

そしてネズミザメの肉は低カロリー・高たんぱくな食品で、さらに言えば小骨がないんです。小骨は子供が魚嫌いになる理由で上位にきますし、被介護者の方の喉に刺さったりすると大変ですので小骨は厄介です。しかし、サメ肉は肋骨がほぼ無いようなもので、小骨の心配がありません。これはかなり強みだと思います。

さらにネズミザメで忘れてはいけないのがもうかの星です。

ネズミザメの心臓を指しますが、馬刺しのような味わいで、ごま油や塩をつけて食べると最高に美味しいです。ごく一部の居酒屋さんやサメイベント以外ではなかなか食べる機会がありませんが、お勧めの逸品です。

 

 

【サメを食べてもいいの?】
乱獲などにより減少が心配されるサメ類がいくつかいます。ホホジロザメ、シュモクザメの仲間、ヨゴレなどもそうですね。ですので、サメを食べることについて種の保全の観点から心配する人もいるかもしれません。

確かに獲りすぎてしまったら良くないです。ネズミザメは母胎依存型・卵食タイプと呼ばれる生殖方法で、母親のお腹の中で胎仔が別の卵や兄弟を食べて成長するというサメですが、一度に産む数がアジやサバなどに比べてやはり少なく成熟にも時間がかかるので、一気に沢山獲ってしまうと問題です。

ネズミザメの胎仔。卵食によって胃がパンパンに膨れています。

こうした事情から「サメを食べる」と言っただけで乱獲と結び付けて非難する環境保護活動家もいますが、今ネズミザメはマグロ漁船のはえ縄などで混獲、つまりついでに獲れてしまっているのが現状です。なので、有効活用しないと、彼らの死が無駄になってしまうという側面もあります(もちろん混獲を減らす取り組みも必要です)。

また、逆説的ですが、定期的に利用する文化があるからこそ資源を守っていこうという機運も生まれる可能性があります。なんか顔怖いしよく知らないし、水族館でも見ないし、いてもいなくても良くない?みたいな感じ世間がなってしまうと大変です。持続可能な数を消費して発信していくことで、カッコいいし、生態も面白いし、美味しいし、守っていこうね!という流れを作れるのが理想だと僕は思います。

 

 

今回はここまでとさせていただきます。ネズミザメは切り身で出回ることはあれどその姿を見ることはあまりないのでなじみが薄いかもしれませんが、実は僕らの身近な存在だったりしますので、少しでも興味を持っていただけると嬉しいです。引き続きよろしくお願いいたします。

 

【Writer Profile】

サメ社会学者Ricky

1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国ポートランド州立大学へ留学。

社会人として働きながら、サメの生態や環境問題などについて情報発信。主な発信分野はサメの生態、水産業、動物倫理、進化生物学など。

本HP『World of Sharks』での運営のほか、Youtube動画配信、トーク・プレゼンイベント登壇、水族館ボランティアなどで活動。

メールでのお問い合わせ、質問などはコチラ!
shark.sociology.ricky@gmail.com

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