交尾していないのに出産?サメの処女懐胎(単為生殖)を解説!

おはヨシキリザメ!サメ社会学者Rickyです!

 

突然ですが皆さん、聖母マリアって聞いたことありますか?多分あると思いますが、だいぶ端折って説明すると相手の男性がいないのにいきなりイエス・キリストを産んだとされている人です。

よく知らないけどこんな人です。

後述する通り人間を含めた哺乳類にそんなことはできないのですが、実はサメの仲間でこの聖母マリアみたいな現象が確認されているんです。つまり、オスと交尾していないのにもかかわらず子供を産んだサメがいるんです!

今回はサメの処女懐胎、生物学的に言えば単為生殖と呼ばれる現象について解説していきます。

 

目次:
【最初の処女懐胎】
【単位生殖とは何か】
【異常な現象か生存戦略か?】

 

【最初の処女懐胎】
サメの単為生殖は最初、ウチワシュモクザメ(Sphyrna tiburo)というサメで確認されました。

ウチワシュモクザメ

2001年12月14日、アメリカのネブラスカ州にあるヘンリードーリー動物園で展示されていた3匹のウチワシュモクザメのうち一匹が出産しました。

この3匹のウチワシュモクザメは全て雌で、交尾する相手が水槽内にいませんでした。これにより、この出産された個体が単為生殖、つまり雄の精子を使わずにその子だけで子供を産んだのではないかという疑惑が浮上しました。

補足すると、この件より前にも雄がいない水槽でサメが子供を産むケースはよくありました。ただ、サメの雌は長期間精子を体内に保存できるので、野生下で胎内に入った精子を使って子供を作り、水槽に入ってから子供を産んでいると思われてきました。

ところがこのウチワシュモクザメたちはフロリダで捕獲された時点でまだ未成熟で、オスのいない状態で3年間飼育されていました。未成熟ならそもそも交尾しないでしょうし、いくらなんでも3年間も精子を貯蔵できるとは思えません。こうした事情もあって、詳しく調べられることになったんです。。

産まれた赤ちゃん自体は水槽内のほかの魚に食べられてしまったんですが、一部組織が残っていたのでそれと三匹の雌の遺伝子が調べられました。その結果、三匹のうち一匹が子供の母親であること、さらにその母親の遺伝子のみ受け継いだ子供であることが判明しました。

詳しい経緯は下記を参照↓

 

 

単為生殖の事例は他の脊椎動物でも確認されていましたが、哺乳類と軟骨魚類、つまりサメの仲間たちでは当時まだ見つかっていませんでした。

人間を含む哺乳類は遺伝子発現の都合で単為生殖では正しく個体発生できないとされています(実験でそのようなマウスが作られた実例はある)。しかし、サメに関してはこのウチワシュモクザメが世界で初めて科学的に確認された単為生殖の事例として注目されました。

 

 

【単位生殖とは何か】
ここで単為生殖という言葉の定義を確認しておきます。

かなり簡単にいえば、単位生殖は雌単独で子供を作ることです。より細かく言うと「雌性配偶子が雄性配偶子と接合することなく個体発生する現象」という風になると思います。

今回はサメの話なので、「本来卵と精子が受精してできた受精卵がサメの赤ちゃんになっていくけど、卵だけでそれが始まる現象」くらいの理解で大丈夫です。

 

以下に少し具体的に説明します。

普通はオスがメスの胎内の放出した精子が卵殻腺に保存され、卵巣から排卵された卵と受精して発生が始まり段々とサメになっていきます。

サメの受精の様子を簡易的に再現。サメの精子は頭がネジネジしています。

ところが、単為生殖の場合は極体というものが精子の代わりをします。

極体は卵が細胞分裂してできる小さな細胞で本来捨てられるものなんですが、単為生殖ではこれが精子のようにはたらいて発生が始まります。

極体が精子の代わりに働く。

極体はもとをただせば同じ卵なので、遺伝子は母親由来のものだけになります。

ここでちょっとマニアックな話をしますが、単為生殖と似た言葉で無性生殖という言葉があります。漢字からして無性生殖と単為生殖は同じ言葉のように感じますが、実は違います。

無性生殖は組み合わせまで親と同じ遺伝子を持つ子供を作ることを指します。これがいわゆるクローンです。一方で、単為生殖は雌だけで子供を作りますが、卵が減数分裂をして遺伝子の組み合わせが変わっているので、無性生殖ではありません。

なので「サメはクローンを作ることがある」というと間違いになるのでご注意ください。

 

 

【異常な現象か生存戦略か?】
ウチワシュモクザメのような単為生殖について、一部の図鑑などでは「特殊な環境に閉じ込められたが故に発揮した能力」という風に説明されています。

要は、オスと出会うことがない限られたスペースの水槽という野生ではありえない状態のために起きてしまった、ある種の異常事態だというわけです。

確かに、単位生殖には遺伝子多様性を確保できないというデメリットがあります。

僕たち人間も含め、有性生殖を行う生物は遺伝子を多様化させることができます。それぞれ別の遺伝子をもつ父親と母親が子供を作り、その子がまた別の遺伝子を持つ同種と子供を作ることで、ほとんど無限に多様な子孫を作れます。

遺伝子多様性が高ければ、伝染病や気候変動などの大きな環境変化が起きても多様な中の一部がその環境に適応して生き残れたりします。

この観点で言えば、単為生殖は母親とほとんど変わらない遺伝子の個体を作り出すので、遺伝子多様性は向上しません。しかも、重度の近親交配の個体がそうであるように、単位生殖で産まれた個体は一般的には何らかの異常があって生き残りにくいとされています。

ただ、だからといってサメの単為生殖が異常な現象とは言い切れません。はっきりしたことはまだ分かっていませんが、単為生殖は彼らの生き残り戦略の一つだと僕は思っています。

その理由をいくつか述べます。

まず、この単為生殖という現象は他の動物でも確認されており、他のサメでも現在数多く見つかっています。

例を出すなら、カマストガリザメ、ネムリブカ、トラフザメが挙げられます。最近だと日本国内でもドチザメの単為生殖が確認されました。

ドチザメ単為生殖に関する報道記事はコチラ↓

また、サメではありませんが2015年にノコギリエイの仲間が単為生殖をしていたと明らかになりました。

ここで注目したいのがノコギリエイとトラフザメの事例です。

まずノコギリエイについて、この単為生殖は野生の個体で確認されました。サメやエイは子育てをせず子供は産みっぱなしなので野生で親子関係を特定するのはほぼ不可能ですが、このケースではタグ付けされた個体を調査するうちに偶然7匹が単為生殖だと分かりました。

ノコギリエイの単為生殖については下記を参照↓

そしてトラフザメの事例。この子は飼育下の個体でしたが、これまでのサメと違うのは、オスの精子を使って普通に子供を作ったことがあるサメであったことです。つまり、普通の有性生殖から単為生殖に切り替えたという事例です。

トラフザメの単為生殖については下記を参照↓

こうしたケースを考えると、単為生殖が「閉じ込められた特殊な状態」で起きた異常とは必ずしも言えない気がしてきます。

 

さらに、いくつかの爬虫類は、同じ環境下に雄がいるにもかかわらず単為生殖することがあります。

アメリカで研究された野生のマムシの仲間、そして動物園でオスの別個体と飼育されていたコモドドラゴンが単為生殖で子供を産んだ事例が報告されているんです。

それぞれの記事はコチラ↓

以上のことを踏まえると、単為生殖は確かに遺伝子多様性についてはマイナス面もありますが、異常な現象というよりも生き残り戦略の一つと言えるのではないでしょうか。

 

サメについて言えば、彼らは4億年ほど前にこの地球で誕生し、多少形を変えつつも生き残ってきました。その4億年の間には恐竜を滅ぼしたものを含む大量絶滅が複数回怒っています。

結論を急ぐことはできませんが、単為生殖はサメがここまで長く繁栄できている理由の一つなのかもしれません。そして、サメの親子関係や遺伝子を野生よりも容易に確認できる水族館という施設は、今後のサメ研究においても重要なキーになりそうです。

 

 

※今回の記事はYouTubeチャンネルで話した内容を加筆修正したものです。YouTubeチャンネルでも発信活動を合わせて行っているので、本ブログと合わせてよろしくお願いいたします。

 

【Writer Profile】

サメ社会学者Ricky

1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国ポートランド州立大学へ留学。

社会人として働きながら、サメの生態や環境問題などについて情報発信。主な発信分野はサメの生態、水産業、動物倫理、進化生物学など。

本HP『World of Sharks』での運営のほか、Youtube動画配信、トーク・プレゼンイベント登壇、水族館ボランティアなどで活動。

メールでのお問い合わせ、質問などはコチラ!
shark.sociology.ricky@gmail.com

 

 

 

 

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