ジョーズのモデル?ニュージャージーサメ襲撃事件を解説!

おはヨシキリザメ!サメ社会学者Rickyです!

サメと言えばいまだに「人食いザメ」という偏見が見受けられますが、そもそも映画『ジョーズ』のようにサメが何度も人を襲うような事件は過去に実在したのでしょうか?

実はかつて、約2週間の間に5人がサメに襲われ、4人が死亡・1人が大怪我を負うという恐ろしい事件がアメリカで現実に起きていたんです。

今回は『ジョーズ』のモデルになったと言われている、ニュージャージーサメ襲撃事件を解説していきます!

 

目次:
【事件の概要】
【真犯人は誰だ?】
【人食いザメという偏見】

 

 

【事件の概要】
事件が起きたのは1916年のアメリカニュージャージー州です。夏の暑い日が続き、ほかの州の人々も海沿いのリゾート地に押し寄せていました。以下に起こった事件をまとめていきます。

7月1日
第一の襲撃
犠牲者:チャールズ・ヴァンサント

最初の事件が起きたのはBeach Havenという場所です。犠牲者はワンちゃんと一緒に遊んでいたチャールズ・ヴァンサントという20代の男性でした。ヴァンサントはビーチから海に入って泳いでいた時に、突然叫び声をあげます。

周りにいた人たちは最初ワンちゃんに向かって叫んでいると思いましたが、すぐに異変に気付き、二人のライフガードが救出に向かいました。この時ヴァンサントはすでにサメに足を噛まれてしまっていました。

ヴァンサントはライフガードに助け出されましたが、左太ももの肉をえぐり取られてかなり出血しており、病院に運ばれるよりも前に担ぎ込まれたホテルで亡くなってしまいます。

 

これが米国東海岸で記録された最初のシャークアタックでした。しかし、この襲撃がサメによるものか当時人々の間で意見は割れていて、新聞では「魚に殺された」と表現をぼかす記事もありました。また、科学者の中にはサメの襲撃である可能性は非常に低いと強調する人もいたそうです。

現代でこんな事件が起きたら証拠もなしにサメだと決めつける人がむしろ多い気がしますが、当時は海水浴場にわざわざ来てサメが人を襲うというイメージがなかったらしく、一般人の間でもそこまで騒ぎになっていなかったそうです。

 

そんな事情もあってか、ニュージャージー州のビーチはその後も特に閉鎖や対策がされることはなく普通に開かれていました。しかしここで第2の事件が起きます。

 

7月6日
第二の襲撃
犠牲者:チャールズ・ブルーデン

2回目の襲撃はBeach Havenから約72キロほど北に離れたSpring Lakeの海岸で発生しました(Lakeは地名であり湖ではないです)。

犠牲者はホテル従業員のチャールズ・ブルーデンという方で、ホテル業務の休憩時間中に海で泳ごうとビーチに向かいました。

ブルーデンは120mほど岸から離れて泳いでいるところをサメに襲われてしまいます。この時あたりに叫び声が響いて水が真っ赤に染まったそうです。

ライフガードがボートを出して急いで救出に向かい、水面に浮かんでいるブルーデンを引き上げますが、彼の両足は膝から下が噛みちぎられていました。ブルーデンは岸にたどり着く前に出血多量で亡くなってしまいます。

 

1回目の襲撃と異なり、今回は新聞がより大きく、派手に取り上げ、サメの襲撃が一気に話題になりました。センセーショナルに報道されたこともあって、ニュージャージー州は観光客が激減し、観光産業が大きな経済的な損失を被ることになってしまいます。

 

7月8日
科学者の記者会見

この2回目の襲撃を受けて科学者による記者会見が開かれました。出席した3人の科学者はサメが人を襲うこと自体が驚くべきことであり、第3の襲撃が起こることはないだろうと述べながらも、岸に近いところで泳ぐことやビーチにネットを設置して警戒することを推奨しました。

これがもし映画なら

「あいつらはバカだ。奴はまた来る」とか主人公が決めつける→本当にサメが来る→主人公が正しかったと証明されて科学者が謝る

みたいな展開になると思いますが、当時サメの襲撃というのは前代未聞の出来事でしたし、後でも説明しますがサメが人を襲うことは現代でも稀だとされているので、恐らくですが当時のこの見解はまっとうなものだったと思います。

 

ただ、事実は小説より奇なりというか、今回は更なる襲撃事件が起きてしまいます。しかも今回の現場は海ではなく川でした。

 

7月12日
第三の襲撃
犠牲者:レスター・スティルウェル

この日、第二の事件現場からさらに42㎞ほど北のマタワン川で地元の子供たちが遊んでいました。

泳いで遊んでいた彼らは黒っぽい板みたいなものを見つけます。最初は古い木の板が浮いているのかと思いましたが、すぐにそれがサメの背鰭だと分かりました。

少年たちは急いで川から上がりますが、この時にレスター・スティルウェルという11歳の少年が川の中に引きずり込まれてしまいます。

 

同日
第四の襲撃
犠牲者:ワトソン・フィッシャー

レスター少年が襲われるのを目撃した別の子供たちが街に大人たちを呼びに行きます。

大人たちは川でレスター少年を探しますが、探していたうちの一人であるワトソン・フィッシャーという青年がサメに足を噛まれて重傷を負ってしまいます。フィッシャーは助け出され病院に連れていかれますが、出血がひどくて亡くなってしまいました。

 

同日
第五の襲撃
犠牲者:ジョゼフ・ダン

さらにフィッシャーが襲われてから約30分後、先ほどの襲撃を知らずに別の場所で泳いでいたジョゼフ・ダンという少年がサメに襲われます。彼は左足を噛まれてしまいますが、一緒にいた別の少年たちに助け出され一命はとりとめました。

 

ここまで襲撃が続いたのでマタワン川やその周辺はパニック状態になります。ビーチは閉鎖され、漁師たちは小さいのも含めてサメをとにかく捕まえて、マタワン川に発砲したりダイナマイトを投げ込む人もいました。

今の基準で考えれば単純に海や川の生態系をめちゃめちゃにしているだけに思えますが、まあそれだけのパニックだったということだと思います。

 

7月14日
サメの捕獲

剥製製作者のマイケル・シュレイサーがマタワン川近くの海で2.3mほどのホホジロザメを捕獲しました。

ホホジロザメは3~5mほどで、最大では6m近くに達する。

この小さめのホホジロザメの胃の中から人間の骨が見つかり、このサメが一連の事件の犯人では?という疑惑が浮上します。

この骨が本当に先ほど紹介した犠牲者たちのものなのか、そもそもこのサメだけが犯人なのか、はっきりしたことは判明しませんでしたが、このサメの捕獲以降新たな犠牲者がでなかったため、このサメが犯人だったということでニュージャージーサメ襲撃事件は幕を下ろしました。

 

 

【真犯人は誰だ?】
この事件でまだ解明されていない謎というのが、本当に捕まったホホジロザメが一連の犯人かどうかということです。

この謎を考えるうえで注目すべきはマタワン川で起きた襲撃です。

川などの淡水域に入ってくることができるサメというのは非常に限られていて、ホホジロザメは基本出来ないとされています。

ここでは詳細は省きますが、淡水と海水では浸透圧が大きく異なるため、ごく一部の魚しか行き来することができないんです。

淡水で生きることができ、なおかつ人を襲うほど大型なサメとしてはオオメジロザメが知られています。

オオメジロザメの成魚。2~3mほどになり、魚だけでなく人間のような大きな獲物を襲うことがある。

ホホジロザメ、イタチザメと並び危険なサメとされていて、ミシシッピ川、ニカラグア湖など淡水域にも現れます。僕も沖縄の河川で見たことがあります。

こうした知識をもって改めて考えると、少なくともマタワン川の襲撃はオオメジロザメによるものだったのではないかと思われます。

ただし、オオメジロザメ以外のサメが川に入ってくることが全くないわけではありません。川の塩類濃度や水温次第では、本来海でしか生きられないサメが川に来る可能性はあるので、断定するにはちょっと証拠不足です。

 

さらに謎を付け加えるのであれば、そもそも一尾のサメが執拗に人間を狙うのかが疑問です。

たしかに三毛別のヒグマやチャンパーワットのベンガルトラなど、何かが原因で動物が連続して人間を襲った事例はありましたが、サメでこうしたことが起きるのか、起きるとすれば原因は何か、よく分かっていません。

事件が昔であることもあり真相を今になって確かめるのは難しいですが、押し寄せた数多くの観光客や海洋環境の変化など、何かしらの要因がいくつか重なった結果、複数の大型のサメがたまたま連続して人を襲ったというのが真実に近い気がします。

 

 

【人食いザメという偏見】
このニュージャージーサメ襲撃事件をきっかけに、それまで一般人の間では怖いというよりよく分からない魚であったサメが恐怖の対象になり、やがて小説『ジョーズ』およびそれをもとにした映画が作られたと言われています。

『ジョーズ』原作者のピーター・ベンチュリーがどれくらいこの事件を参考にしたかは分かりませんが、小説・映画両方の中でこのニュージャージーの事件について触れられています。

事件が起きたのは20世紀初め頃ですが、、その約70年後にそれをもとにした小説および映画が大ヒットしたこともあり、後の世代の人々もホホジロザメだけでなくサメ全体を人食いマシーンとみなすようになってしまいました。

ただ、ここで最後にお伝えしたいのは、すべてのサメを人食いモンスター扱いするのは極端だということです。

サメは全部で500種類ほど知られていますが、unprovoked attack、つまり人から危害を加えたり干渉していないのにいきなり襲ってくる危険性のあるサメは三種か多くて十数種類と言われています。

年間の犠牲者数で言えば、サメが1~10人を殺しているのに対し、犬は2万5千人以上を死に追いやっています。確率論で言えば、海でサメに襲われる確率は300万分の1と言われていますが、海に行く途中などの交通事故で亡くなる確率は100分の1です。

もちろんサメに襲われる危険がないとは言いませんが、それはどの野生動物も同じです。クマ、イノシシ、シカ、タヌキ、ハチ、クラゲ・・・。どんな動物もかかわり方を間違えれば、あるいは運が悪いだけで脅威になります。

このニュージャージーサメ襲撃事件は確かに恐ろしい悲劇でしたが、こうした事件だけがサメのすべてではないということも理解してもらえればと思います。

 

以上がニュージャージーサメ襲撃事件の解説でした。

こうした事件の紹介はサメに対する偏見を助長するという危惧もあるかもしれませんが、過去の獣害事件からその生物の生態や対策が明らかになることもあります。

野生動物と適度な距離間で共存できるように、引き続きこのブログや動画で生物の解説などを行っていきますので、よろしくお願いいたします!

 

 

※今回の記事はこちらの動画でお話しした内容をもとに加筆修正を加えたものです。YouTubeでの情報発信も行っておりますのでよろしくお願いいたします。

【Writer Profile】

サメ社会学者Ricky

1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国ポートランド州立大学へ留学。

社会人として働きながら、サメの生態や環境問題などについて情報発信。主な発信分野はサメの生態、水産業、動物倫理、進化など。

本HP『World of Sharks』での運営のほか、YouTube動画配信、トーク・プレゼンイベント登壇、水族館ボランティアなどで活動。

メールでのお問い合わせ、質問などはコチラ!
shark.sociology.ricky@gmail.com

 

 

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