【人食いザメ】日本で実際に起きてしまったサメによる獣害事件

おはヨシキリザメ!サメ社会学者Rickyです!

以前『ジョーズ』のモデルになったとされるニュージャージー州サメ襲撃事件について解説しましたが、今回は日本の話です。

僕より年上の方であればリアルタイムでニュースを見ていた方もいるかもしれませんが、かつて日本でサメによる襲撃が連続し、映画『ジョーズ』さながらのパニックが起きたことがありました。

今回は日本で実際に起きたシャークアタックを紹介していきます。

※あくまで事故を通してサメの生態や被害防止策を考えるための記事です。記事の内容以上の個人情報やサメの恐怖をいたずらに煽るコメントはお控えください。

 

目次:
【タイラギ漁での事故】
【科学的な検証】
【ホホジロザメ捕獲】
【小船への襲撃】
【事故から学ぶ対策】

 

 

【タイラギ漁での事故】
1992年3月8日 愛媛県松山沖で悲劇が起きました。

被害者のAさんは潜水漁師としてタイラギ漁を行っていました。

タイラギというのは砂泥底に生息する大きな二枚貝です。近年では漁獲が大幅に減ってしまいましたが、かつてはかなりの利益をあげていた重要な食用種でした。

タイラギ貝

このタイラギ漁はヘルメット式の潜水服を着て作業を行います。潜水服はスキューバダイビングのように空気タンクを背負うのではなく、通信ケーブル・エアホース・救助用ロープが船から繋がっている仕様でした。

スキューバダイビングのように残圧を気にする必要はないですが、ヘルメットからの視界はかなり狭く、砂泥に潜む貝を捕まえる過程で周りの水も濁るため、周囲にサメがいても気が付かないような状況でした。

 

事故が起きたのは午後15時20分ごろ、作業をしていたAさんとつながっていた通信ケーブルから「上げてくれ!」という声が聞こえ、その後ガガガッ!という音とともに通信が途絶えました。

船上の乗組員たちがすぐに引き上げようとしますが、普段なら人の手で普通にあげられるはずの救助ロープはびくともしなかったそうです。その後急に軽くなったので引っ張ると、通信ケーブルと救助ロープは途中で切断されていました。

つながっていたエアホースを引っ張って潜水服を引き上げると、大きく切り裂かれた潜水服と傷ついたヘルメットしか残っていませんでした。

あたりにAさんは見つからず「行方不明」になってしまいました。

 

この件は海上保安部によって調べられ、「犯人はサメ」と発表されました。同業者が襲われたこともあってか、現地の漁師さんたちによってAさんの捜索とサメの捕獲作業が始まりました。しかし、被害者もサメも一向に見つかりませんでした。

この事故は「人食いザメに戦々恐々」・「瀬戸内を覆うジョーズの恐怖」など過激な見出しでマスコミに報じられ、周辺の漁業やダイビング業界にも大きな影響が出たそうです。

 

 

【科学的な検証】
被害者も犯人も見つからず不安と混乱が大きくなっていったため、この事故はサメの専門家によって科学的な調査が行われることになりました。

・そもそも襲ったのはサメなのか?

・サメだとしたら種類は何か?

・どのくらいの大きさだったのか?

当時の海の状況や残された潜水服などから再度調べられることになったんです。

 

潜水服は右胴部を大きく切り裂かれてズタズタになっていました。肩のあたりにも切り傷があり、金属部分にも何かが貫いたような穴が空いていました。かなり大型の生物に激しく攻撃されたことが伺えます。

次に、切り裂かれたケーブルの断面や潜水服の肩当てに細かいスジのようなものが見られました。さらに、潜水服から米粒のような小さな歯の破片が見つかりました。

この破片の縁がノコギリのようになっており、襲った生物は鋸歯、つまり肉を切り裂くのに適したギザギザした歯をもっていると判明しました。

人間を襲う危険性がある大型の生物としてシャチも候補になりますが、彼らは鋸歯状の歯をもっておらず形状が大きく異なります。歯の破片からして、サメの仕業である可能性が濃厚になりました。

シャチも人間にとって脅威になりますが、鋸歯状の歯を持っていません。

 

そして、潜水服に残った傷跡からしてサメの口の大きさは約40cm、全長は5m前後と推定されます。

ここまでの情報を整理して考えると、Aさんを襲ったサメは鋸歯状の歯をもつ全長5m前後の大型のサメです。この条件に当てはまるサメはホホジロザメとイタチザメの2種くらいですが、ここで問題になるのが水温です。

事故当時の海底は水温12度程度でした。イタチザメは青森以南の日本各地に生息していますが、温かい水温を好むサメであり、この水温は冷たすぎます。

イタチザメ。幅広い分布域に生息するが、琉球列島やハワイ、フロリダ周辺など温かい海域を好む。

一方でホホジロザメは周囲の海水温より体温を高く保つことができ、10度近い水温でも現れることがあります。

ホホジロザメは冷たい海でも体温を高く保つことができる。

こうしたことから、今回の事故は全長5mの大型のホホジロザメによるものと断定できました。

 

 

【ホホジロザメ捕獲】
1992年5月22日、兵庫県の播磨で大きなホホジロザメが漁獲されました。

漁獲時の透明度は約8m、水温は14.7度で、サメは網で引き揚げられた時点で既に死亡していました。

このホホジロザメを詳しく調べたところ、全長4.9m、体重1.1トンで、オスのホホジロザメとしてはかなり大型であることが分かりました。ちなみに解剖の結果、胃はほとんど空っぽだったようです。

このホホジロザメが先ほどの事件と関連があるのか一切は不明でしたが、松山の事故から場所も日数もそこまで離れていないことから、この捕獲も先ほどの事故同様に新聞などで報じられ、このサメが事故の犯人だとする憶測も流れました。

 

 

【小船への襲撃】
松山沖での事故から3カ月たった1992年6月17日。ちょうどこの日は松山沖での事故をきっかけに結成されていた愛媛県サメ対策本部が解散した翌日でした。

松山から南西に60キロほど離れた伊方町沖で、漁師のBさんでアジ釣りのために長さ約5m程度の木造船で沖に出て釣りの準備をしていました。

その時に「ドーン」という大きな音とともに、船と同じくらい大きなサメが船首の方にぶつかってきました。

さらにサメは大きな口を開けて船に乗り上げるように襲い掛かってきて、船に噛みつくなど執拗に攻撃してきたそうです。

Bさんは船にあった道具で必死にサメを叩いたりつついたりして反撃し、どうにかサメを撃退しました。

幸いにもBさんは噛まれたりすることはなかったですが、すさまじい恐怖を味わったらしく、後にサメの研究者である仲谷先生が取材しようとしたところ「もうあんな恐ろしいことは思い出したくないのでお話しできません」と断られてしまったそうです。

なお、噛まれたという船の右舷にはたくさんの切り傷が残っており、船底にはサメの歯が突き刺さっていました。調査の結果、この歯はホホジロザメの下顎歯であることが判明し、その歯の大きさから、この船を襲った犯人も全長5m前後の巨大なホホジロザメであったと結論付けられました。

 

 

【事故から学ぶ対策】
サメによる事故というのは世間で思われているより稀であり、死亡事故ともなればその数は非常に少なく、今回の事件から今に至るまでのメディア、そして世間がサメ全体を凶暴な人食いマシーンとしているのはかなりの誇張・偏見です。

しかし、今回のような悲劇が起こってしまったこともまた事実なので、ここでは今回の事件に絡めながら、サメに襲われない対策を考えていきたいと思います。

 

<対策1:大きなサメが複数回現れた場所や一度人がサメに襲われた場所を避ける>
今回の松山沖の事故の少し前、実は1月と2月、近い海域で大型のサメが目撃されています。このサメの種や具体的な大きさは不明ですが、サメは潜水服を来た人の周りをグルグルと回っていて、漁師さんは急浮上して事なきを得たそうです。

日本では今回取り上げたもの以外にも渥美半島や宮古島などでサメによる事故が起きていますが、これらの事故発生前にも大型のサメが目撃されたり、事故が短い期間に連続したりしています。

サメの問題なのか。それともその時の海の状態がそうさせたのか。理由は不明ですが、一度事故があったり、大きなサメが目撃された場所での潜水は避けるか、十分に対策をして潜ったほうが良いと思います。

ちなみにここで言う「大きい」の定義ですが、人を襲ったサメの多くは2・8~3m以上とされています。今回紹介したホホジロザメも、3mを超えるあたりから海棲哺乳類を食べる割合が高まるので、3m近いサメを見たら特に注意が必要です。

 

 

<対策2:サメを刺激するような音や臭いを出さない>
事故発生当時の透明度の資料が見つからなかったのですが、タイラギ漁は砂に潜む貝を掘り起こすように獲っていく作業なので、砂がまっている中で不規則な音を立てながら作業をしていたものと思われます。

よく人を襲うとされるホホジロザメやイタチザメ、オオメジロザメも含めて、サメは必ず人を襲うものではありません。現に、こうしたサメと一緒に泳ぐためのダイビングツアーがあるくらいです。

危険なサメのオオメジロザメだが、常に人を襲っているわけではない。

しかし、低周波の音や動物の出す臭いなどに刺激されてサメが近づいてくる可能性はあります。特に、砂がまっていたりして透明度が悪い場所では、サメが人の影を本来の獲物であるウミガメやアザラシなどと間違えて襲ってしまうかもしれません。

これが本当に襲撃の理由かは分かりませんが、他にも透明度が悪い状況でホホジロザメに襲われる事故が日本で起きています。

タイラギ漁のように生活のかかった漁業活動の場合は仕方ないと思いますが、皆さんがダイビングなどする際に、不用意に暴れたり魚を傷つけたりしてサメの気を引かないようにしましょう。

 

<対策3:春先のダイビングは要注意かも>
ホホジロザメはまだ謎の多いサメですが、妊娠した大型の個体が、出産のために日本沿岸に来ることがあり、その時期がだいたい3~5月だと推定されています。

ホホジロザメは沖縄周辺では2~3月に、九州より北は4~5月にそれぞれの沿岸域で出産するとされていて、これが彼らの決まった回遊パターンだとすれば、春先は大型のホホジロザメと出会いやすい時期といえます。

現に、松山沖、そしてその後に起きた渥美半島での事故はともに3月~4月に発生していて、同じ時期に沿岸の定置網で大型のホホジロザメや妊娠個体が複数漁獲されています。

ホホジロザメの繁殖についてはまだ分かっていないことが多いので、はっきりとしたことは言えないですが、用心するに越したことはありません。

・大きなサメに気を付ける

・1人で潜ったりしない

・サメを刺激するような行動はしない

これらの行動はいつ潜るときも重要ですが、特に春先は徹底した方がいいかもしれません。

 

 

以上が1992年に起きたサメ騒動の一連の流れでした。これ以外にもサメの事故は起きてはいますが、ここで紹介した松山の事故は恐らく日本で初めて科学的に人へのシャークアタックが検証された事例だと思います。

映画とかだと「人が襲われた!でっかいサメに違いない!とにかく仕留めろ」みたいに乱暴に事が進みますが、当然現実はそんな単純ではないです。

全てが判明するわけでも敵討ちができるわけでもないですが、科学的な視点から状況を整理し、さらなる被害を防ぐための対策を立てることが重要だと思います。

 

※今回の記事はYouTube動画内で紹介した内容を加筆修正しております。YouTubeも定期更新しているのでぜひよろしくお願いいたします。

 

 

 

【Writer Profile】

サメ社会学者Ricky

1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国ポートランド州立大学へ留学。

社会人として働きながら、サメの生態や環境問題などについて情報発信。主な発信分野はサメの生態、水産業、動物倫理、進化など。

本HP『World of Sharks』での運営のほか、YouTube動画配信、トーク・プレゼンイベント登壇、水族館ボランティアなどで活動。

メールでのお問い合わせ、質問などはコチラ!
shark.sociology.ricky@gmail.com

 

 

 

 

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