おはヨシキリザメ!サメ社会学者Rickyです!
突然ですが、もし皆さんが「野生のサメに会いたいな」と思ったらどこに行きますか(思わないって人も、僕になったつもりで無理やり考えてください笑)。
恐らく全員が海に行こうとするはずです。
しかし、世界には海ではない場所に住むサメやエイの仲間がいます。
今回は川や湖に住むサメというテーマでお話していきます。
目次:
【海と川の違い】
【サメの体は塩辛い?】
【オオメジロザメ】
【ノコギリエイ】
【淡水エイの仲間たち】
【マングローブ林のサメ】
【グリフィスの仲間たち】
【海と川の違い】
皆さんご存知のようにほとんどのサメは海に住んでいます。これからその例外を紹介していきますが、そもそも同じ水中という環境なのに、なぜ海にしかいない生物と川にしかいない生物がいるのでしょうか。少し回り道になりますが、まずはそこからお話しします。
海水と淡水を行き来できない理由には、浸透圧というものが関係しています。
浸透圧を超ざっくり言うなら、「どれくらい塩辛いか」です。そして、塩辛い方が水を引き寄せる力があります。
理科の教科書風に図解するなら以下のようになります。
何か物質が溶けた水のことを水溶液と言います。この水溶液に溶けている物質の濃度が濃いほど水を引っ張る力があります。水だけが行き来できるような膜(半透膜)で濃度の違う水溶液を分けた場合、濃度の濃い方に水が引き寄せられるような現象が起き、これを浸透と呼びます。そして、この引き寄せる力を浸透圧と言います。
難しく聞こえるかもしれませんが、浸透圧は非常に身近な現象です。例えば、ナメクジに塩をかけると縮むというのは知っていますよね。あれは、塩をかけられたことによって体の外が急に塩辛くなってしまい、水分を奪われることで起きる現象です。
ではマグロやサメなど海で暮らす魚の場合はどうでしょうか。
まずタイやマグロなど硬骨魚の事例を見ていきます。
海水の中を魚が泳ぐとき、自分の体内よりも周りの海水の方が塩辛い、つまり浸透圧が高いので、体から水を持ってかれて脱水していきます。そのため、海水魚は海水を飲むことで、できるだけ水分を確保しつつ、取り過ぎてしまう塩類を鰓や尿でできる限り排出します。塩をかけられたナメクジみたいに水分を失わないよう、体の浸透圧を調整しているんです。
ここで重要なのは、淡水に住む魚はこれと逆をやらないといけないということです。
淡水魚の場合は体内の方が浸透圧が高いので、むしろ体内にどんどん水が入ってきてしまい、塩類濃度が低くなってしまいます。これはこれで問題なので、淡水魚は水を飲まず、自然に入ってくる水は大量の尿で排出し、塩類を鰓から取り入れ、体の浸透圧を保っています。
海水と淡水ではこのように体内環境を維持するために必要なプロセスが異なるため、こうした機能を調整できる限られた生物しか行き来することができないんです。
【サメの体は塩辛い?】
海水に住む硬骨魚は水を保持して塩類を捨てることで体内の浸透圧を調節しているというお話をしました。一方でサメやエイなどの軟骨魚類は、体の浸透圧を海水より少し高く保つという方法で調節しています。
海水に住む硬骨魚、淡水すむ硬骨魚、そしてサメやエイの仲間、それぞれの塩類濃度は以下のようになっています。
サメたちの塩類濃度は他の動物とは本来そこまで変わりません。しかし、彼らは体液中に尿素をたくさん含むことで、塩辛さを上乗せしています。これにより脱水を防ぐだけでなく水を適度に体内に流入させることができます。
つまり、硬骨魚が鰓や腎臓で周りの塩辛さに負けないように調整しているのに対し、サメたちは周りの海水よりも塩辛くなることで調整をしているわけです。ただ、サメたちも急に体の生理機能を変えられないので、ほとんどの海水魚と同じように淡水で生きていくことはできません。
普通の海水魚とサメの違いが分かったところで、ここまでの話をざっくりまとめます。
淡水と海水だと水の塩辛さ、つまり浸透圧が異なります。それぞれの環境で必要な生理機能が異なるので、サメやエイを含む多くの魚は海と川を行き来したりできません。
しかし、ごく一部の生物は独自の浸透圧調節を行って海と川を行き来することができます。身近な例で言えばサケやニホンウナギがそうです。このようにどちらの環境にも住める性質を広塩性と呼びます。
そして、サメやエイにも淡水にすむ仲間はいます。いくつか紹介していきましょう。
【オオメジロザメ】
淡水にも現れるサメの代表選手と言えるのがオオメジロザメです。
ホホジロザメ、イタチザメと並ぶ危険ザメとしても有名なこのサメは、アマゾン川やミシシッピ川、ザンベジ川などの川をのぼることがあります。
日本でも沖縄周辺に生息していて、沖縄の川をのぼってくる幼魚を観察したことがあります。
沖縄の川にのぼってくるのは大きくても1mくらいの若い個体なので、恐らく小さいうちに餌が豊富で天敵がいない淡水域で過ごし、大きくなってから外洋に出ていくものと思われます。

過去にニュージャージー州サメ襲撃事件をブログで紹介しましたが、その時にも川で人が襲われていて、この時の犯人はオオメジロザメではないかと推測されています。
オオメジロザメも他のサメのように尿素を体内に蓄積させて浸透圧調整を行いますが、彼らは淡水環境でも体内に尿素を保持しています。
塩辛い体のままでは、普通の淡水魚よりも水が体に入り込んできてしまいますが、オオメジロザメはどうやって適応しているのでしょうか。
この詳しいメカニズムはまだ解明されていませんが、オオメジロザメは腎臓でできるだけ尿素を回収し、できるだけ薄めた尿を排出することで淡水域に適応しているようです。
東京大学と美ら海水族館によって行われて実験によると、オオメジロザメを淡水域に移動させるとイオン輸送にかかわる遺伝子が腎臓で発現することが確認されました。同じ実験をドチザメで行ってもこうした現象が見られなかったことから、この遺伝子の発現が淡水への適応のカギになっていると思われます。
詳しくは下記をご参照ください↓
【ノコギリエイ】
水族館でよくノコギリザメと間違われるノコギリエイの仲間も、オオメジロザメと共に広塩性の軟骨魚類です。
ノコギリエイは熱帯から亜熱帯という温かい海域の一部に分布していて、世界には5種知られています。そのすべての種が、浅い海や河口近くに住んでおり、時に淡水域にも現れます。実際に過去にはオオメジロザメと共にノコギリエイの仲間がニカラグア湖で確認されています。
ちなみに沖縄でもノコギリエイの記録はあるみたいですが、オオメジロザメみたいに頻繁に遡上してくるという話は聞かないです。

ノコギリエイはオオメジロザメ以上に生態について不明な点が多いですが、ノコギリエイも幼魚の頃に淡水域で暮らし、成長すると海に下るとされています。
そんなノコギリエイですが、漁業活動や生息環境の悪化で数を減らしつつある絶滅危惧種でもあります。ノコギリエイの長い吻は網に絡まりやすいのでよく混獲されてしまい、彼らは陸地に近い海や川に住んでいるため、人間の開発などの環境破壊に影響を受けやすいのです。
日本の水族館にはノコギリエイの仲間が複数展示されていますが、野生に住む彼らの仲間も守っていきたですね。
【淡水エイの仲間たち】
オオメジロザメやノコギリエイが海と川を行き来するのに対し、淡水での生活に適応して海で生きられなくなった板鰓類がいます。それが淡水エイたちです。
淡水エイの仲間はアマゾン川やメコン川などでいくつかの種が確認されていて、ポルカドットスティングレイなどが有名です。日本にもペットとして輸入され品種改良までされています。

野生の淡水エイの生態は分かっていないことが多いですが、彼らは繁殖などの理由で一時的に淡水にいるのではなく、その川や湖でずっと暮らしています。元々海に住んでいた祖先が川に閉じ込められるなどして独自の進化を遂げたとされており、生理機能も淡水に適応しています。
先ほど海に住むサメやエイは体に尿素を蓄積させ、体内を塩辛くして海水に適応していると説明しましたが、淡水エイは体に尿素を蓄積させることができないので、海水では生きていけません。姿かたちは海に住むエイとそこまで変わりませんが、完全に淡水魚になっているのです。
ちなみに、淡水エイではありませんが、水族館でよく見るアカエイも河口域などに現れることがあり、他のサメやエイの仲間に比べると塩類濃度の低い環境への適応力は高いと思われます。
【マングローブ林のサメ】
完全な淡水域というわけではないですが、小さいときに海水と淡水が交じり合うマングローブ林などで暮らすサメがいます。代表的な例はレモンザメやニシレモンザメです。
彼らもオオメジロザメと同じように暖かい海に暮らすサメで、普段は沿岸や沖合に生息していますが、出産のためにかなり河口に近い場所に来ることがあります。
レモンザメもオオメジロザメも胎生のサメなので生まれた時から自分で泳げるハンターですが、体が小さいので他のサメや大きな魚に食べられてしまうことがあります。小さいうちは浅い場所で小さな魚を食べて育ち、ある程度成長してから沖に出ていくという生き残り戦略をとっているわけですね。
【グリフィスの仲間たち】
淡水に住むサメとして、一般にはあまり知られていませんがグリフィス(Glyphis)の仲間たちがいます。グリフィスというのは、ガンジスメジロザメ属の仲間を指します。メジロザメ目に属するこのサメたちは、英語ではRiver sharkと呼ばれます。
River sharkと言われると川にだけ住む淡水エイのようなサメをイメージしますが、実際には河川だけでなく汽水域や沿岸にも生息しているそうです。
グリフィスの仲間は現在3種知られています。
・ガンジスメジロザメ(Glyphis gangeticus)
・ギャリックガンジスメジロザメ(Glyphis garricki)
・スピアトゥースシャーク(Glyphis glyphis)
IUCNレッドリストによれば、これらグリフィスの仲間は絶滅危惧種だとされていて、生息域の開発や汚染、乱獲などにより危機的な状況にあると言われています。しかし、何故川に生息するのかのかを含め、生態がほとんど分かっていないのが現状です。
先ほどのノコギリエイもそうですが、こうした面白い生物たちを、何も分からないまま絶滅させてしまう、なんてことがないようにしたいですね。
以上が、川に住むサメやエイの紹介でした!こういう話をすると「川でサメに食われる!」とかすぐ騒ぐ人がいますが、サメに襲われるケースと言うのは非常に稀なので、どうかご安心ください(むしろ川で見られるなら大歓迎です)。
【Writer Profile】
サメ社会学者Ricky
1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国ポートランド州立大学へ留学。
サメをはじめとする海洋生物の生態や環境問題などについて発信活動を展開。
本HP『World of Sharks』での運営のほか、YouTube動画配信、トーク・プレゼンイベント登壇も行い、サメ解説のライターとしても活動。水族館ボランティアの経験あり。
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shark.sociology.ricky@gmail.com