ジョーズが北の海に?北方領土の色丹島に現れたホホジロザメについて

おはヨシキリザメ!サメ社会学者Rickyです!

先日YouTubeを開いていたら、大きくサメが表示されたニュースのサムネイルが目に留まりました。

『巨大なサメ 何故北の海に? イカ漁の船長もビックリ』というタイトルのこのニュース。動画を見れば分かりますが、北方領土の色丹島の沖で5m近い大きなホホジロザメが漁獲されたという内容です。

吻先がとがった大きな顔とクリクリの目、大きな三角形の歯、三日月形の尾鰭、間違いなくホホジロザメです。

ニュースでは「この海域で、ホホジロザメがいるなんて聞いたこともない。本当に驚いた」という漁師さんのコメントを紹介して、北の海にホホジロザメが現れたこと衝撃を伝えています。

さて、ホホジロザメが北海道や北方領土に現れるのはそんなに珍しいことなのでしょうか。今回はこの問題を簡単に考えてみようと思います。

 

【過去の捕獲記録】
映画『ジョーズ』やそれに続く多くのサメ映画のせいか、ホホジロザメ(というよりも人を襲いそうなデカいサメ)は温かい海に現れるイメージがあるかもしれません。

というよりも、そもそも日本にホホジロザメが生息していること自体に驚く人も多いです。僕が松山沖で起きた事故をYouTubeで取り上げた際に、そう思わせる反応を多くいただきました。

事件の内容はこちら↓

では、実際のところどうなのか。やや古い記録ですが、1992年3月~1993年8月の間に起きた日本近海のホホジロザメ確認事例をまとめた論文があったので、以下に羅列していきます。

1992年3月8日 愛媛県松山 (事故で見つかった歯の欠片より同定)
1992年3月11日 鹿児島県佐多 (刺し網)
1992年4月18日 高知県足摺 (定置網)
1992年4月21日 北海道島牧 (定置網)
1992年5月14日 鹿児島県内之浦 (定置網)
1992年5月22日 高知県豊 (定置網)
1992年5月22日 兵庫県播磨灘 (トロール漁)
1992年5月29日 北海道古平(定置網)
1992年6月17日 愛媛県伊方 (残された歯より同定)
1992年7月7日 和歌山県那智勝浦 (定置網)
1992年12月29日 千葉県千倉 (定置網)
1993年1月4日 福岡県岡垣 (定置網)
1993年1月4日 島根県瀧 (定置網)
1993年1月4日 静岡県下田 (カニ漁にて混獲)
1993年1月?日 鹿児島県内之浦 (詳細不明)
1993年3月4日 千葉県千倉 (定置網)
1993年4月15日 大分県楢原 (刺し網)
1993年8月5日 島根県西ノ島 (定置網)

※1:仲谷一宏氏の『Distribution of White Shark in Japanese Waters』参照
※2:1993年の静岡の記録について、論文内の年号は1994年とありましたが、記載ミスと判断し訂正しています。

この記録を見て、「思ったより日本にいるのね」と驚いた方もいるかもしれません。

そして、高知や鹿児島などが多いようですが、一応北海道でも二度ほど漁獲されています。

さらに古い記録ですが、1985年5月にも北海道の椴法華と古平で成熟したメスのホホジロザメが漁獲されています(『Records of the White shark Carcharodon carcharias from Hokkaido, Japan』参照)。

今回のニュースと季節的なズレはありますが「ホホジロザメが北の海に現れる」ということ自体は、そこまでレアなイベントではないのかもしれません。

 

 

【ホホジロザメは温かい?】
では、ホホジロザメは北の海で生きていけるのでしょうか。

リゾートビーチで人を次々に襲う誇張に満ちたサメ映画のせいか、ホホジロザメは温かい海にいるイメージがあります。そんなサメが冷たい海水温に耐えられるのか疑問に思う方もいるかもしれません。

実は、ホホジロザメは、周りの海水温より体温を高く保つことができる数少ない魚の一種なんです。

多くの魚は変温動物と呼ばれ、周りの水温によって体温が大きく変化します。そのため、寒すぎる水温にいる場合は温かい水温の場所に移動するか、活動を休止してエネルギー消費を極力抑えたりします。僕たちのように、体温を35~36℃程度に維持できないんです。

しかし、ホホジロザメは二つの理由により、体温を他の魚より高く保つことができます。

一つ目の理由は体が大きいことです。コップ一杯のお湯とバスタブのお湯では、後者の方が冷めにくいというのは分かると思います。これと同じ理屈で、体が大きいと体温を保ちやすいのです。

あるものの熱の総量を決めるのは体積ですが、熱が逃げていくのは表面からです。そして、器が大きくなる時、体積も表面積も大きくなりますが、体積の方が増え方が大きいのです。そのため、器(生き物で言えば体)が大きくなればなるほど、相対的な表面積が小さくなり、熱を体内に維持しやすくなります。

ホホジロザメは全長3m以上、大きいものだと6mにも達する大型の生物なので、これだけでも他の魚よりも体温を維持しやすいでしょう。

二つ目の理由として、ホホジロザメが体温を高く保ちやすい血管構造をもっていることが挙げられます。

魚はエラを使って呼吸しますが、エラは体外の水と直接、しかも酸素を取り込みやすいように表面積を広げて接しているので、エラを通して体の熱が逃げていきやすいのです。

しかし、ホホジロザメや近い仲間のネズミザメやアオザメなどは奇網と呼ばれる血管構造をしています。彼らの体内では、外水温によって冷やされた血液が流れる血管と、筋肉や内臓の活動で温められた血液が流れる血管が隣り合っており、これにより、逃げていこうとする熱が冷えている血液を温める、という循環が起き、体外に熱が逃げていきにくくなります。

飛び上がるホホジロザメ。体温が高いゆえに運動能力もずば抜けている。

さらに、ホホジロザメは赤黒い筋肉、いわゆる血合いが体の内側に入り込んでいます。これも体温を保つうえで重要です。

ブリやタイなどの魚だとこの血合いが体表面近くにあります(焼き魚にされた鮭の皮をはがすと出てくる茶色っぽい身の部分を思い出してください)。一方で、ホホジロザメはこれが内側にあるため、筋肉の収縮運動によって発生する熱が体外に出ていきにくいのです。

ホホジロザメを輪切りにした経験はありませんが、同じネズミザメ目のマオナガの断面は見たことがあります。赤黒い血合いが内側にあるのが分かると思います。

マオナガの断面

【地球温暖化の影響はあるのか】
以上のような特徴をもつホホジロザメは、周りの水温よりも体温を4~13℃高く保つことができるので、一般の方が思っている以上に低い水温でも泳ぎ回ることが可能です。

ニュース内のインタビューで沖縄美ら海財団の佐藤氏も触れてる通り北の海には豊富な餌がありますから、北海道や北方領土周辺の海域に現れてもそこまで不自然ではありません。

ただし、今回取り上げた過去の事例が春の記録だったのに対し、ニュースが報じられたのは11月でした。

地球温暖化などの海洋環境の変化が、彼らの行動に影響を及ぼしている可能性もゼロではないと思います。

日本近海のホホジロザメの生態はどうなっているのか、海の環境はどう変化しているのか・・・。うまくサメたちと共存するためにも、こうしたことに注目していきたいですね。

 

 

【Writer Profile】

サメ社会学者Ricky

1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国ポートランド州立大学へ留学。

サメをはじめとする海洋生物の生態や環境問題などについて発信活動を展開。

本HP『World of Sharks』での運営のほか、YouTube動画配信、トーク・プレゼンイベント登壇も行い、サメ解説のライターとしても活動。水族館ボランティアの経験あり。

メールでのお問い合わせ、質問などはコチラ!
shark.sociology.ricky@gmail.com

 

 

 

 

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