おはヨシキリザメ!サメ社会学者Rickyです!
今回は、前々回、そして前回の記事に引き続き、カワスイこと川崎水族館についてです。
カワスイの気になる特徴の一つとして、魚名板がないということが挙げられます。
水族館マニアでないと「魚名板?何それ美味しいの?」状態かもしれないので一応補足すると、魚名板とは、水槽の下とか上とか横とかにある、魚の写真やイラストとその魚の名前がセットになっている掲示のことです。


これがあることで「あの魚なんだろう?」と思った時に「レッドテールキャットフィッシュだって。確かに尾鰭が赤いね」みたいに、知らない魚でもすぐに名前を知ることができます。なお、魚名板と一般に呼ばれますが、もちろんエビやカニ、イカやタコの仲間も掲示されています。
カワスイには、全くと言っていいほどこの魚名板がありません。
正確に言えば、多くの水族館にあるような形ではないのです。
写真を見れば分かるように、カワスイの魚名板はQRコードになっており、スマホのカメラで読み込むことで、生物の名前を含め生息地などの解説が見れるようになっています。
なかなか画期的だと思う方も多いかもしれませんが、僕は初めこのQR方式には反対でした。
僕の考えとして、水族館は研究・教育・啓発を行う施設であるべきというのがあります。
これは、水族館を博物館の範疇だとするならその役割を果たすべきというのもありますが、どれだけ美化したところで野生動物を捕まえて閉じ込めてる営みなので、公的な意義・役割がなければ正当化はできない、という僕の考えに基づいています。
近年では、動物の権利を主張する立場から水族館そのものに反対する人々までいます。日本でも過激な自称ヴィーガンが某水族館の前に水族館の残酷さを訴えるパネルを掲示したりしました。
おいおい… pic.twitter.com/ThR0Y5ArzJ
— Sian (@Akula_30sm) November 23, 2020
このパネルは見た目も論理も汚いのでただのゴミとして撤去していい気がしますが、確かに動物をエンタメ「だけ」のために利用していいのか、飼育における動物福祉を向上すべきではないのか、という議論はもっと盛んになるべきだと思います。
少し話がそれましたが、要は水族館は「生体標本」を展示する施設であるため、その生物に対する解説がほとんどないのはいかがなものか・・・という考えが僕にはあるわけです。
QRコードを読み込めば見られるにしても、手間がかかるから見てもらえないのではないか。第一、そもそもまるで景観を壊すものかのように隠してしまっては本来の存在意義を失っているようなものだろ・・・と。
さて、そんな僕が実際にカワスイに行ってみて思ったのは「QRコードもそこまで悪くはないかも」ということです。
少し考えれば単純な話なのですが、現代は大体の人がスマホを持っており、特別生き物に関心がない人でも、見返すかどうか分からない写真を撮りまくります。つまり、水槽を前にする人は大体スマホを構えています。

それを考慮すると、QRコードで読み込む解説というのは、普通に解説版があるよりも生物の名前や解説を読んでもらいやすいかもしれません。
実際に現地で他の来館者を観察していると、生き物を撮影する→ついでにQR読み込む→名前や生態を知って同伴者とそれについて話す、という場面を何度か目撃しました。何でもTwitterやインスタにアップする現代において、QR読み込みはそこまで手間ではないどころか、解説を読んでもらう良い導線になっているとすら思えます。なお、カワスイには無料wifiがあるので、通信制限の心配もありません。
また、QRコードは場所をとらないので、通常の魚名版以上の情報をいれることができます。カワスイでは魚の名前と写真以外に、生息地や簡単な紹介文を載せてあります。ヤマメの解説には野生下での交雑問題に触れるなどもしています。
ちなみに、QRコードの写真を撮影して家で読み込んでもカワスイの解説が読めるので、家でも勉強できるというポイントもあります(そんなことする人は少数だと思いますが笑)。
さらに言えば、カワスイの内観はかなりお洒落ですが、ただ単にアミューズメント感を出すためというよりも、各エリアにあった世界観を作る内装のように感じました。

プロジェクトマッピングやタッチパネルなどエンタメ寄りな水族館によくある演出はありましたが、水槽のバックに実際の生息場所の景色を投影したり、水槽内の魚の名前が表示される水中映像になっていたりと、ちゃんと意味のある機能でした。
別の水族館だと、なくてもいいような派手なプロジェクションマッピングを水槽に当てていたり、水槽のガラス面にタッチパネルの映像が出てきたりして「マジで邪魔。というかこの光は魚への悪影響とかないの?」と思うこともありましたが、カワスイではそんなことはありませんでした。
この世界観を守るために、解説を少なめにしたり、QRコードに入れるというのは、そこまで悪くないと僕は思います。
ただし、水族館はあくまで研究・啓発施設であるべきというのは変わりません。
ここからは批判ではなく個人的な提案ですが、生物展示エリアとは別に、解説板や標本展示が充実したエリアを一つ設けて、さらに詳しく淡水生物を解説したり、現代の環境問題に関する啓発を行うというのはアリかと思います。
例えば、男鹿水族館GAOでは、アマゾンコーナーに調査小屋を模した標本展示コーナーがあります(行ったことないけど写真見せてもらいました笑)。まとまった世界観を崩さずに啓発を行うことは不可能ではありません。
また、多くの水族館では館内フラッシュ撮影が制限、または全面禁止されていて、特に爬虫類や哺乳類などの展示動物エリアでは禁止のことが多いですが、カワスイではその表示が分かりにくい(あるいはそもそもなかった?)場所がいくつかありました。
これも、雰囲気を崩さない立て札やイラストでもっと目立つようにすることは可能だと思うので、展示生物たちのためにも、ぜひご配慮いただければ幸いです。
一応付け加えておくと、カワスイのバックヤードツアーは給餌室での解説が他と比べて濃い内容で面白かったし、質問した飼育員さんの解答も丁寧でした。また、館内を歩いている職員さんが生物について簡単な解説をしてくださったりと、生き物について知ってもらおうという姿勢そのものはかなり伝わってきました。文字による解説は重要ではありますが、それだけが全てではないとも思っています。

「水族館の在り方」というテーマについては様々な意見があると思いますが、生き物の命を扱っている以上、こういう議論はもっと盛んでもいいと思うので、今後も気づきや考えを発信していこうと思います。
引き続きよろしくお願いいたします!
【Writer Profile】
サメ社会学者Ricky
1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国ポートランド州立大学へ留学。
サメをはじめとする海洋生物の生態や環境問題などについて発信活動を展開。
本HP『World of Sharks』での運営のほか、YouTube動画配信、トーク・プレゼンイベント登壇も行い、サメ解説のライターとしても活動。水族館ボランティアの経験あり。
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