サメの体の構造  ~内部編~

ここではサメの体の内部について、サメに特徴的な部分やサメ初心者の方が気になるであろう部分を重点的に取り上げます。また、生殖についてはかなり細かく扱いたいので別ページにまとめています。

【骨格】
サメは軟骨魚類、正確には軟骨魚綱板鰓亜綱というグループに分類されます。軟骨魚類はサメ、エイ、ギンザメというごく少数の動物が属するグループです。その名の通り、ほとんどの骨格が軟骨でできています。ちなみに、ブリやマダイなどいわゆる「普通の魚」と呼ばれる魚たちは硬骨魚と呼ばれます。サメたちの骨が糖たんぱく質を主成分とした軟骨であるのに対し、硬骨魚の骨は僕たちと同じようにカルシウムを多く含んでいます。

骨格が軟骨であることにはどのような意味があるのでしょう。まず、軟骨というのは硬骨に比べて水に沈みにくいため、大きな体でも動きが鈍くなることなく水中で活動することができます.サメの進化はまだ多くの謎に満ちていますが、一説には、サメの体が軟骨でなければジンベエザメやホホジロザメのような大型な種は生まれなかったとも言われています。確かにウシマンボウやリュウグウノツカイなど例外はありますが、硬骨魚のほとんどは2mいけば大きい程度ですね。

また、サメの骨格が軟骨であることはその歯の維持に役立っているという説もあります。軟骨の骨格はカルシウムを他の動物よりも必要としないため、余った分を歯の生え変わりや楯鱗の生成に回すことができます。この説に従えば、サメは骨格が軟骨であるがゆえに、捕食者として衰えない歯という武器と水の抵抗を少なくし体を守る皮歯という防具を身につけることができるわけです。

ただし、この軟骨の骨格は古代のサメに思いを馳せる方々の悩みの種でもあります。軟骨は化石としてほとんど残らないため、大昔に暮らしていたサメの痕跡が歯の化石以外ほぼ手に入らないのです。

化石の多くは、バクテリアなどが死んだ生物の柔らかい部分(肉など)を分解し、死骸の残った固い部分、特に骨のカルシウムが地層に埋没した状態のまま鉱物に置換されて出来上がります。そのため、糖たんぱく質を主成分とした軟骨の化石はほとんど残らず、ゆえに現代人はほとんどお目にかかれないわけです。

ちなみに、よく水族館などで展示している顎の標本について、あれも歯以外の部分は乾燥して固まっているだけで実際には軟骨です。

ネズミザメの下顎歯。歯は硬骨で、それ以外の顎の骨や奥に見える舌骨は軟骨です。

 

【血液】
サメの血液で特異な点としては、尿素を多く含んでいることです。正確に言えば、尿素とトリメチルアミンオキサイドですが、平たく言えばおしっこみたいなものが流れているのです。「汚い」とか言わないでくださいね。これもサメたちが生きるうえでとてつもなく重要なことです。

サメについて調べていると必ず出てくる単語に浸透圧というものがあります。サメは尿素とトリメチルアミンオキサイドによって浸透圧を調整しているのです。

以下に基礎からかみ砕いて説明します。

濃度の異なる液体2種類、例えば濃い食塩水とただの水を半透膜(溶媒(≒水)は通すけど溶質は通さない膜)で区分けすると、濃度の濃い溶液の方に膜の反対側にある水が引っ張られます。これが「浸透」です。

異なる濃度の液体は、半透膜を通じて、濃度が同じになろうという働きが起きるわけです。この例で言えば、濃い食塩水の方が反対側の水を引っ張ります(正確に言うと、水は半透膜を通り抜けますが食塩は通り抜けないため、食塩側への水の移動だけがおき、引っ張られているように見えます)。

野菜に塩をかけると水分が出ていったり、ナメクジに塩をかけると小さくなるのも同じ理屈です。そして、この浸透(水が移動すること)を抑える圧力が浸透圧です。浸透圧が強い方(=濃度が濃い方)へと水が引っ張られます。

要するに水は濃度の濃い溶液の方に引っ張られてしまうということです。そして、生物の細胞膜は、半透性に近い性質のため、この浸透圧の問題は生物の体でも発生します。

さらにこれを魚の話に落とし込むと、周りの水よりも体内の塩類濃度の低い魚(=自分の周りの水の塩類濃度が自分の体の濃度より高い魚、つまり海水魚)は体からどんどん水を持っていかれ、周りの水より体内の塩類濃度が高い魚(=自分の周りの水の塩類濃度が自分の体の濃度より低い魚、つまり淡水魚)は体にどんどん水が入ってきてしまうということなのです。

余談ですが、遭難した時に絶対に海水を飲んではいけないのもこの浸透圧が理由です。海水を飲むと体の塩分濃度が急激に上がるため、浸透圧調整のために身体が水を欲しがります。なので、喉を潤すつもりがどんどん喉が渇いていき、さらに身体中の水分が浸透圧調整に回されるため、逆に脱水症状になり、死に至ります。

話を魚に戻しましょう。海水魚は体からどんどん水分を奪われてしまうので、海水をまず飲みます。ただし、そのままだと塩類も体に溜まってしまうので鰓で余分な塩類を排出し、それでも出せない分を少量の尿に凝縮して捨てます。

サメやエイはこのような浸透圧調節ができません。そのため、体から本来排出される尿素を再利用して血液中に保ち、体から水分が失われるのを防ぐという方法で、浸透圧調整を行っているのです。

 

【寄網】
血液と関連する話ですが、サメの体内組織についての解説でよく出てくるのが寄網です。寄網とは、静脈の熱を動脈に伝えることで身体全体を温かく保つ仕組みのことです。全てのサメではないですが、ホホジロザメ、アオザメなど、ネズミザメ目の高速で泳ぐサメ、さらに言えば同じく猛スピードで泳ぐマグロなどの硬骨魚がこの寄網をもっています。

具体的に説明すると、鰓から酸素を体に運ぶ動脈は体の外側で冷やされた血液が運ばれてきます。一方、二酸化炭素を運ぶ静脈は筋肉や内臓の運動によって暖められた血液が流れています。これらの毛細血管が隣り合うことで、静脈の熱が動脈に伝えられ、変温動物でありながら体温を高く保つことができます。

なぜ体温を保つことが重要なのでしょうか。生き物の体は、ミクロレベルで見れば細胞の化学反応によって動いています。より細かく言えば、ATP(アデノシン三リン酸)を分解するときに放出されるエネルギーが生体活動に使われています。化学反応なので、熱量が高いほど分子の運動が激しくなり反応が活性化されます。つまり、体温が高い方が筋肉の収縮速度も高まり、速い動きが可能になり、動きも活発になるのです。

通常魚類は変温動物であり、哺乳類のような恒温動物と比べて必要な摂取カロリーが少ない代わりに外的環境で体温が変化しやすいのです。しかし、寄網をもつホホジロザメやマグロなどの魚は、体温を高く保つことで水中で速く泳ぐことができるのです。

 

【肝臓】
サメの肝油は健康商品として売り出されているので、サメ好き以外の方でもサメの肝臓が大きいということはイメージとしてあるかもしれません。実際、かなり大きいです。種類にもよりますが、体重の4分の1になる種類もいます。

ツマグロを解剖した時の写真。外に飛び出させているのが肝臓です。胃などの外の臓器に比べてかなり大きいことが分かります。

サメの肝油はスクワレンと呼ばれ、この油を多量に含むため、浮力調整に役立っています。先ほど軟骨や血液の話を出しましたが、サメの浮力調節は肝臓の役割が大きいです。サメの体には硬骨魚類と違って(うきぶくろ)がないため、油を多く含む大きな肝臓を使って浮力を維持しているのです。

ちなみにこの肝油ですが、どのサメからも同じようにとれるわけではなく、アイザメやアブラツノザメなどの深海ザメおよびウバザメなどから多く採ることができます。また、耐寒性が極めて優れているため、かつては燃料としても使われていました。

 

【消化器官】
サメが食べたものは、僕たちのそれと同じように、食道を通って胃に、胃で処理されて腸へと送られます。

サメの腸の形は大きく分けて3タイプあります。葉巻型、リング型、螺旋型です。

それぞれに共通する点としては、腸の長さ自体は短く単純だけれども、内部構造を複雑にすることで表面積を広げ、栄養分をより吸収しやすくているのです。例を挙げると、全長5.2mのジンベイザメのリング状の腸の総面積を調べたところ、12236㎠もあったそうです。

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【参考文献】
田中彰 『美しき捕食者 サメ図鑑』2016年 p53, 58
矢野和成 『サメ 軟骨魚類の不思議な生態』1998年 p63