サメの体の構造  ~内部編~

ここではサメの体の内部について見ていきます。ただし、全部の臓器とかは細かく扱わず、サメに特徴的な部分やサメ初心者の方が気になるであろう部分を重点的に取り上げます。また、生殖についてはかなり細かく扱いたいので別ページにまとめます。

【骨格】
サメは、サメ、エイ、ギンザメというごく少数の動物が属する軟骨魚類というグループに分類され、全身の骨格が軟骨でできています。唯一硬骨でできている部分が歯の部分です。骨が軟骨であることについては、実はサメの進化において重要な意味が隠されているようです。

まず、軟骨というのは硬骨に比べて水に沈みにくいため、大きな体でも動きが鈍くなることなく水中で活動することができます.サメの進化については分からないことも多いためあまり突っ込んだ話はできませんが、一説には、サメの体が軟骨でなければホホジロザメのような大型な種は生まれなかったかもしれないという話もあります。真実かどうかは分かりませんが、興味深い視点だと僕は思います。

また、サメの骨格が軟骨であることによって、サメはハンターとしての武器を維持できているとする説もあります。軟骨の骨格はカルシウムを他の動物よりも必要としないため、余った分を歯を生え変わらせたり肌を歯のように固くザラザラしたもの(=皮歯)にする方に回すことができます(田中, 2014, p53, 58)。つまり、サメは骨格が軟骨であるがゆえに、捕食者として衰えない歯という武器と水の抵抗を少なくし体を守る皮歯という防具を身につけることができたのです。

ただし、この軟骨の骨格は、古代のサメに思いを馳せる方々の悩みの種でもあります。それは、軟骨は化石としてほとんど残らないため、大昔に暮らしていたサメの痕跡が歯の化石以外ほぼ手に入らないからです。

僕は古生物学に詳しいわけではないので一般常識+推測でお話ししますが、化石の多くは、バクテリアなどが死んだ生物の柔らかい部分(肉など)を分解し、死骸の残った固い部分、特に骨のカルシウムが地層に埋没した状態のまま鉱物に置換されて出来上がります。つまり、化石自体がそもそも希少であることも考えると、軟骨の化石はほとんど残らず、ゆえに人間はほとんどお目にかかれない、ということではないでしょうか(この辺は詳しいことが分かれば更新します)。

ちなみに、よく水族館などで展示している顎の標本について、あれも歯以外の部分は乾燥して固まっているだけで実際には軟骨です。

アオザメの頭骨標本。

 

 

【血液】
サメの血液で特異な点としては、尿素を含んでいることです。正確に言えば、尿素とトリメチルアミンオキサイドですが、平たく言えばおしっこみたいなものが流れているのです。「汚い」とか言わないでくださいね(笑)。これもサメたちが生きるうえでとてつもなく重要なことです。

サメについて調べていると必ず出てくる単語に浸透圧というものがあります。サメは尿素とトリメチルアミンオキサイドによって浸透圧を調整しているそうなのですが、生物科目を勉強しないと何を言っているのかチンプンカンプンなので、もう少しかみ砕いて説明します。サメ関連書物では浸透圧そのものについてさらっとしか触れてくれないので、ここではしつこいくらい書きます。

濃度の異なる液体2種類、例えば濃い食塩水とただの水を半透膜(溶媒(≒水)は通すけど溶質は通さない膜)で区分けすると、濃度の濃い溶液の方に膜の反対側にある水が引っ張られます。これが「浸透」です。異なる濃度の液体は、半透膜を通じて、濃度が同じになろうという働きが起きるわけです。この例で言えば、濃い食塩水の方が反対側の水を引っ張ります(正確に言うと、水は半透膜を通り抜けますが食塩は通り抜けないため、食塩側への水の移動だけがおき、引っ張られているように見えます)。野菜に塩をかけると水分が出ていったり、ナメクジに塩をかけると小さくなるのも同じ理屈です。そして、この浸透(水が移動すること)を抑える圧力が浸透圧です。浸透圧が強い方(=濃度が濃い方)へと水が引っ張られます。

余計に訳わかんなくなってきそうなのでまとめますが、要するに水は濃度の濃い溶液の方に引っ張られてしまうということです。そして、生物の細胞膜は、半透性に近い性質のため、これは生物の体でも発生します。さらにこれを魚の話に落とし込むと、周りの水よりも体内の塩類濃度の低い魚(=自分の周りの水の塩類濃度が自分の体の濃度より高い魚、つまり海水魚)は体からどんどん水を持っていかれ、周りの水より体内の塩類濃度が高い魚(=自分の周りの水の塩類濃度が自分の体の濃度より低い魚、つまり淡水魚)は体にどんどん水が入ってきてしまうということなのです。

余談ですが、遭難した時に絶対に海水を飲んではいけないのもこの浸透圧が理由です。海水を飲むと体の塩分濃度が急激に上がるため、浸透圧調整のために身体が水を欲しがります。なので、喉を潤すつもりがどんどん喉が渇いていき、さらに身体中の水分が浸透圧調整に回されるため、逆に脱水症状になり、死に至ります。

話を魚に戻しましょう。海水魚は体からどんどん水分を奪われてしまうので、海水をまず飲みます。ただし、そのままだと塩類も体に溜まってしまうので鰓で余分な塩類を排出し、それでも出せない分を少量の尿に凝縮して捨てます。ただし、これは硬骨魚類のお話。サメの場合は、体から本来排出される尿素を再利用して血液中に保ち、体から水分が失われるのを防ぐという方法で、浸透圧調整を行っているのです。

また、トリメチルアミンは水よりも密度が低いため(0.726 g/cm3)、先ほどの軟骨同様、サメの浮力を助ける効果があるとされています(※1)。一応補足すると、同じ体積のものであればどちらが沈みやすいのかは密度で決まります。例えば、「羽毛と鉄、どっちが水に沈みやすいか」と言われれば当然鉄と答えますが、理由は「重いから」ではありません。羽毛1㎏と鉄1㎏でも鉄の方が沈みやすいからです。この場合は密度で沈みやすさが決まるのです。

 

【寄網】
血液と関連する話ですが、サメの体内組織についての解説でよく出てくるのが寄網です。寄網とは、静脈の熱を動脈に伝えることで身体全体を温かく保つ仕組みのことです。全てのサメではないですが、ホホジロザメ、アオザメなど、ネズミザメ目の高速で泳ぐサメ、さらに言えば同じく猛スピードで泳ぐマグロなどがこの寄網をもっています。

具体的に説明すると、鰓から酸素を体に運ぶ動脈は体の外側で冷やされた血液が運ばれてきます。一方、二酸化炭素を運ぶ静脈は筋肉や内臓の運動によって暖められた血液が流れています。これらの毛細血管が絡み合うことで、静脈の熱が動脈に伝えられ、変温動物でありながら体温を高く保つことができます。

なぜ体温を保つことが重要なのでしょうか。生き物の体は、ミクロレベルで見れば細胞の化学反応によって動いています。より細かく言えば、ATP(アデノシン三リン酸)を分解するときに放出されるエネルギーが生体活動に使われています。化学反応なので、熱量が高いほど分子の運動が激しくなり反応が活性化されます(何で熱量が高いと分子の運動が活発になるのかは理系の人に聞いてください笑)。つまり、体温が高い方が筋肉の収縮速度も高まり、速い動きが可能になり、動きも活発になります。

通常魚類は変温動物であり、哺乳類のような恒温動物と比べて必要な摂取カロリーが少ない代わりに外的環境で体温が変化しやすいのです。しかし、寄網をもつホホジロザメやマグロなどの魚は、体温を高く保つことで水中で速く泳ぐことができるのです。

 

【肝臓】
サメの肝油は健康商品として売り出されているので、サメ好き以外の方でもサメの肝臓が大きいということはイメージとしてあるかもしれません。実際、かなり大きいです。種類にもよりますが、体重の4分の1になる種類もいると言われています。

ツマグロを解剖した時の写真。外に飛び出させているのが肝臓です。胃などの外の臓器に比べてかなり大きいことが分かります。

サメの肝油はスクワレンと呼ばれ、この油を多量に含むため、浮力調整に役立っています。先ほど軟骨や血液の話を出しましたが、サメの浮力調節は肝臓の役割が大きいです。『Inside the Giant』というドキュメンタリー番組でヤギとサメ、それぞれの肝臓の切れ端を水に浮かべるシーンがあるのですが、サメの肝臓は浮かび、ヤギの肝臓は沈みます。サメの体には硬骨魚類と違って(うきぶくろ)がないため、油を多く含む大きな肝臓を使って中世浮力を維持しているのです。

ちなみにこの肝油ですが、どのサメからも同じようにとれるわけではなく、アイザメやアブラツノザメなどの深海ザメおよびウバザメなどから多く採ることができます。また、耐寒性が極めて優れているため、かつては燃料としても使われていました。

 

【消化器官】
サメが食べたものは、僕たちのそれと同じように、食道を通って胃に、胃で処理されて腸へと送られます。

サメの腸の形は大きく分けて3タイプあります。葉巻型、リング型、螺旋型です。

それぞれに共通する点としては、腸の長さ自体は短く単純だけれども、内部構造を複雑にすることで表面積を広げ、栄養分をより吸収しやすくているということです。田中彰先生とともにオロシザメ(学名:Oxynotus japonicus)を発見したことでも知られる故矢野和成氏によれば(1998),全長5.2mのジンベイザメのリング状の腸の総面積を調べたところ、12236㎠もあったそうです(p63)。

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※1 ですが、尿素の密度は1.32 g/cm³であるため、実際にどの程度血液中の成分が浮力に役立っているのかは不明です。こちらも調べて分かり次第更新します。

【参考文献】
田中, 彰. (2014). 深海ザメを追え (Vol. 1). 千代田区, 東京都: 宝島社.

矢野, .和成 (1998). サメ 軟骨魚類の不思議な生態 (Vol. 4). 秦野市, 神奈川県: 東海大学出版会.