サメの生殖Ⅱ 卵生と胎生

サメの生殖方法には卵を産んでその卵から子ザメが産まれる卵生と、母ザメがそのまま子ザメを出産する胎生に大きく分かれます。だいたいサメは4割が卵生で6割が胎生です。ここでは、多様なサメの生殖についてタイプ別に紹介していきます。

【卵生】
卵生には単卵生と複卵生の2種があります。どちらも種によって形状の異なる固い卵殻に包まれていて、卵殻に空いた小さな孔を通って新鮮な海水が流れ込むようになっています。卵殻の形状は、岩の間に挟まるドリル状(例:ネコザメ)、海藻などに巻き付くように電話コードみたいな紐がついているもの(例:ナヌカザメ)など、様々です。

卵殻の主成分はケラチンという髪の毛や爪を構成している成分です。海水の透過性は高く、卵殻内と海水で浸透圧も変わりません。胚は初期段階から尿素を使った浸透圧調整を行います。卵殻を削ったり、ハッチアウト前に卵殻を開いても子ザメをそのまま育成することができます。

<単卵生>
図鑑や書籍によっては体外産出型卵生、短期保持型卵などとも呼ばれます。卵生の中ではこちらの方が一般的です。二つある輸卵管を通して卵が一つずつ総排出孔から産まれます。そのため、一般的に一度の産卵で二つの卵を産みます。イヌザメ、トラザメ、ネコザメ、ナヌカザメなど多くのサメがこれに該当し、子供は大人のミニチュアバージョンで産まれてきます(イヌザメ、トラフザメなど、大人と模様などが異なる姿の場合もあります)。

産みたてのイヌザメの卵です。

<複卵生>
体内保持型胎生、長期保持型胎生とも言われる複卵生は、卵殻をすぐには産まず子宮で貯めてから産む生殖方法です。複卵生の場合も単卵生と同じく卵殻に包まれた受精卵が輸卵管を通して運ばれますが、すぐには産卵されず子宮の中にとどまります。数個の卵殻が順番に子宮内で並び、胚がある程度育ったら総排出孔に近いもっとも育った方から産み落とされます。この生殖方法はナガサキトラザメ、ヤモリザメの仲間で確認されています。

ナガサキトラザメ(学名:Hlalaelurus buergeri)

【胎生】
胎生のサメは、まるで哺乳類のように子ザメをそのまま出産します。受精卵は卵殻腺で固い卵殻には覆われず、輸卵管を通じて子宮に送られた後に発生を開始します。胎生は、卵黄で胎児を成長させる卵黄依存型胎生と母体依存型胎生に分かれ、さらにその中で下記のタイプに分かれます。

<卵黄依存型胎生>
母ザメから直接栄養を受けることはあまりなく、卵黄から主に栄養を得るサメがここに分類されます。アブラツノザメ、フトツノザメ、トガリツノザメ、ラブカが代表例です。卵黄は他の生殖様式でも使われますが、卵黄だけしかほぼほぼ使わないサメのタイプを外卵黄嚢依存型なんて呼ぶこともあります。

<母体依存型胎生・食卵タイプ>
共食いタイプとも言われます。このタイプのサメは、子供が生まれた後も母親が無精卵を産み続け、子ザメはそれを子宮内で食べて成長します。ホホジロザメ、アオザメ、シロワニ、マオナガ、チヒロザメ(以前のオシザメ)などが該当します。この中でも特に興味深いのがシロワニで、子供たちは無精卵ではなく兄弟そのものを食べ合います。文字通り共食いです。二つある子宮の中で最後まで生き残った最強の子供だけがこの世に生を受けることができるわけですね。

母体依存型胎生・子宮分泌タイプ>
このタイプでは、子宮の中で子ザメがミルクのような栄養物質を吸収して成長します。

母体依存型胎生・胎盤タイプ>
胎盤型は、最初卵黄で成長したのち、卵黄を包んでいた卵黄嚢が変形して胎盤・へその緒になり、子ザメに栄養を供給するようになります。サメによっては子宮内に子ザメごとに子宮隔壁というもので分けられています。

スミツキザメとシロシュモクザメの胎児です。へその緒が体から伸びています。

 

 

便宜上、上記のように胎生の生殖方法を分類しましたが、実際にはこれらの複合型で子育てするサメが多くいます。例えば、多くの胎盤形成をするサメの胎児は初期段階では卵黄を使って成長します。また、イタチザメは大きな卵黄で成長しますが、子宮ミルクも使われています。どのようにサメが子供を育てて産んでいるのかは妊娠個体を解剖するだけでなく、卵黄の質量、生まれる胎児の質量、栄養物質、成長段階など、細かい分析を行って解明していく必要があります。

ここからはサメの生殖の中でも特に面白い事例を紹介します。

 

【食卵生+ミルク:ホホジロザメ】

2016年、日本でホホジロザメの生殖に関して重要な発見がありました。多くのネズミザメ目の仲間同様食卵タイプと分類されていたホホジロザメが、子宮内ミルクも子ザメへの栄養源として供給していることが明らかになったのです。研究によれば、ホホジロザメの母親は食卵を始める前の主な栄養源としてこの栄養物質を子宮内に分泌しているようです。これは大発見なのですが、ホホジロザメの生殖はまだ謎に満ちた部分が多く、まだまだ全貌が明るみになっていません

ホホジロザメの胎児の剥製です。

 

【卵生だと思われていた胎生:ジンベイザメ】

ジンベイザメは1990年代ごろまで研究者の間で卵生だと思われていました。成長途中の胎児が入った卵殻が1953年にメキシコ湾の海底から発見されたためです。しかし、のちの1995年に台湾で捕獲されたジンベイザメから307(!)尾の子供が発見されたため、ジンベイザメは胎生だということが明らかになりました。この発見から、ジンベイザメは卵殻内である程度育つ期間がある卵黄依存型胎生であると考えられます。

では1950年代に見つかった卵殻は何なのか。サメが子供を産む際、卵生種にもかかわらず母親の胎内で卵殻から子ザメが出てしまい胎生のように生まれたり、逆に胎生種が卵殻に包まれたまま子ザメを産んでしまうことがあります。これは偶発タイプ、偶発胎生などと呼ばれます。件のジンベイザメはこの例だったのでしょう。

ジンベイザメの胎児の標本です。

 

 

【参考文献】
Keiichi Sato, Masaru Nakamura, Taketeru Tomita, Minoru Toda, Kei Miyamoto and Ryo Nozu 『How great white sharks nourish their embryos to a large size: evidence of lipid histotrophy in lamnoid shark reproduction』2016年 p1
高木亙、田中宏典、梶村麻紀子、兵藤晋 『2012年度日本板鰓類研究会シンポジウム 資料』 卵生軟骨魚類の発生と体液調節 2012年 p21 
田中彰 『美しき捕食者 サメ図鑑』2016年 p147

田中彰 『深海ザメを追え』2014年 p38 p40,41
仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年 p123,124
兵藤晋 正式名称不明資料 2014年 p85
矢野和成 『サメ 軟骨魚類の不思議な生態』1998年 p88~90