サメの感覚器官

ここではサメが海のハンターとして、どのように感覚器官を駆使しているのかを解説します。図鑑やテレビで紹介されることも多いですが、一応おさらいしていきましょう。

【聴覚】
サメと言えば「血の匂いを嗅ぎつける」ことで有名ですが、実はサメが最初に獲物に気付くために重要なのは音だと言われています。サメの能力の問題というより、水では音が空気中よりも伝わりやすいので、必然的に音が獲物を探知するうえで重要になります。

「え?サメに耳ないじゃん」と思った方。たしかに「耳が良い」と言われると、アフリカゾウみたいなでっかい耳を想像するかもしれません。しかし、サメには耳の穴だけついています。サメは体内の密度が海水と近いため、水を伝わってきた外部の音が直接内耳の中の感覚器官に届くため、人間とは違い外耳が不要ないのです。

サメは断続的で不規則な低周波に反応しやすいと言われています。要は、魚が弱って暴れる音に反応しやすいようです。そのため、生餌を使った釣りやスピアフィッシングでは魚の出す音に反応してサメが寄ってくると言われています。

【側線】
側線は多くの図鑑や解説書で聴覚と同じ分類で紹介されますが、一応分けて記載します。側線は、体の側面に沿って穴が並んでいる線を指します。穴がたくさん並んで線みたいになっているわけですね。各穴の中には神経につながる毛のような感覚器官があり、そこで水の中を伝わる振動を感じ取ります。

サメの体の側面です。よく見ると小さな穴が並んでいます。

つまり、サメの周りを泳ぐ魚の動きを身体で感じ取ることができるのです。図鑑や水族館によって説明の差がありますが、聴覚は水中を伝わる音全般を聞き取る役割を果たしており、側線はもっと近距離の水流の変化を感じている、といったところでしょうか。

ちなみに、この側線はサメに特別なものではありません。他の魚の体にもあります。

【嗅覚】
お待たせいたしました。サメの嗅覚です。サメの鼻の穴は呼吸のためではなく、臭いを感じ取るためだけに使われます(言うまでもなく、呼吸は鰓孔で行っています)。サメの鼻孔はほとんどが下向きまたは前に向いて穴が空いています。そして、その穴の中に臭いを感じる嗅細胞があり、そこで得た情報は終脳に伝えられます。この中のミクロな構造は実はサメによって異なるのですが、マニアックすぎるので現時点では扱いません。ですが、サメの嗅覚をつかさどる器官のサイズおよび複雑さでは、サメおよびエイが飛び抜けていると言われています。

サメは血液、正確に言えばアミノ酸の臭いに敏感です。よく言われる例では、50mプールに一滴血を垂らしただけで反応する、100万分の1に薄めた血の臭いにも反応すると言われています。明確な数字がでている研究では、レモンザメはグリシンをはじめとするアミノ酸を、10億分の1の濃度で感知したとされています。これは、人間の味覚におけるアミノ酸への感度の100万倍以上に相当します。数字で言われるとイメージしずらいですが(笑)、とにかくサメの嗅覚がすごいことは間違いないようです。

サメの嗅覚が優れていると一般にイメージされますが、匂いは帯状に流れに乗って伝わっていくため、いくら感じ取る能力が強くても、音よりはキャッチしにくいはずです。水温や流れによって匂いの拡散方向は変わってしまうためです。これに関連して、ホホジロザメなどのサメの浮いたり沈んだりと上下運動する行動について、水温躍層(同じ深さなのに急に水温が下がる場所)によって乱れた匂いの拡散を探しているためかもしれないという説もあります。

ちなみに、サメにも臭いの好みがあるようです。研究者の実験によれば、ツマグロはサバとイカに、ドチザメはエビ、豚肉、アジに、テンジクザメはイカ、ナミガイに反応を示したそうです。なんで豚肉を入れたんだろうとは思いますし(笑)、臭いの好みという情動的問題なのか、普段食べている餌の臭いにただ単に敏感なだけなのかは分かりませんが、ある程度臭いを選んでいるようです。

【視覚】
サメ、という名前は、一説には「小さい目」からきているとも言われています。そんなサメの目ですが、獲物を捕る際にその目は有効に活用されています。特に、水面にいる獲物に下から一気に奇襲をかけるホホジロザメや、長い尾びれで小魚を攻撃するニタリなどは、目を積極的に使って獲物を捕らえているであろうことが推測できます。

種によって程度は当然前後しますが、サメは暗い中でも物が見えると言われています。サメの目にはタペータムという光を眼球内で反射する機能が備わっており、これによって人間が真っ暗にしか見えない光がわずかな場所でも、サメは物を見ることができるようです。このタペータムは一部のナマズやイルカにも備わっていてサメ特有のものではありませんが、サメはある程度夜目が効くようです。

また、感覚器官とは少し違いますが、サメの目の形や大きさには種類によってさまざまに違いがあります。そして、メジロザメは瞬膜と呼ばれる瞼のような白い膜がついており、獲物を襲う際に目を保護しています。ネズミザメ目のサメには瞬膜はありませんが、目を反転させることで白目を剥き、こちらも獲物を襲う際に目を守っているようです。

メジロザメ特有の瞬膜です。

【ロレンチーニ瓶】
「サメの第六感」なんてよく言われるのがこのロレンチーニ瓶です。サメの吻(鼻先)にはたくさんの小さな穴が空いています。この穴の中にはジェル状の物質が入っており、サメはこれを使って微弱な電気信号を感じ取ることができます。

シロシュモクザメのロレンチーニ瓶から漏れ出したジェル状物質です。

 

皮を取り除いたロレンチーニ瓶です。白いジェリー状物質がったっぷりです。

 

生物というのは生きている間ほんのわずかですが電気を発しています(これを利用したのが心電図です)。ロレンチーニ瓶はこの微弱な電気を感じることができるのです。

このロレンチーニ瓶ですが、実際にどのように役に立っているのでしょうか。砂の中や岩陰に隠れている獲物を探すときには確かに便利ですが、そういったハンティングをしないサメの鼻先や、鼻の上の部分にもロレンチーニ瓶がついています。

ホホジロザメの液浸用本。吻の先をよく見ると、鼻の上にロレンチーニ瓶があります。

 

鼻の上のロレンチーニ瓶にはどういう役割があるのでしょうか。ホホジロザメについては「獲物を襲う瞬間に目を保護のため反転させるので、目が見えない状態でも獲物の位置を正確にとらえるためにロレンチーニ瓶を使っている」という説があるようですが、ウバザメなどについてはプランクトンフィーダーなので、ロレンチーニ瓶がなぜ必要なのかいまいち分かりません。一説には、ロレンチーニ瓶は地球の磁場を感じ取り、サメが海を回遊するのに役立っているとも言われています。タグや発信器を使用した調査では、ホホジロザメ、ヨシキリザメなどのサメは太平洋横断旅をすることが確認されています。こうしたサメたちは、地球上における自分たちの位置をロレンチーニ瓶を使って把握しているのかもしれません。

【味覚】
さあ、音を聞きつけ臭いを嗅ぎつけ、獲物を視覚で確認し、いよいよ口に獲物をいれます。サメはよく見境なく獲物を食べていると思う人も多いですが、実際にはそんなことはありません(イタチザメは別かもしれませんが笑)。味覚を使って食べるべきものかを判別しています。事実、味を感じる器官である味蕾がサメにも備わっていて、当然口の中で「嫌だ」と感じたら吐き出します。カレイの仲間ウシノシタを口に入れたサメは嫌がって吐き出すことが知られており、この魚はサメ除けの道具を開発するための研究対象とされてきました。

ただ、サメに明確な味の好みがあるかどうかは不明です。サメの歯は基本的に食性に特化していると言われますが、逆に言えばその歯で食べやすいものであれば何でも食べられるわけで、事実、魚類も頭足類(イカとかタコなど)を一緒くたに食べるサメも多くいます。さらに、サメの食べているものというのは飼育下でなければ野生で観察するか捕獲して解剖するかしかないわけで、その状況によって偏りが当然出ます。サメ好き仲間の中で話題になったのは、「メガマウスが魚を食べている」という話についてなのですが、そもそも捕獲されたメガマウスが他の魚と一緒くたで網に入っていたので、故意に食べたのか網の中で間違って口に入れたのか区別しようがありません。

話の飛躍になるかもしれませんが、ここで個人的に気になった疑問点を一つ。「人を食べたサメは人の味を覚えるのか」。中二病的な発想ですが、可能性のない話ではありません。陸生哺乳類の話ですが、アイヌ民族の熊撃ち猟師である姉崎等氏によれば、クマは滅多やたらに人を襲う獣ではないが、一度人を殺めたクマは人を簡単に殺せる食料と見なすので、人を恐れなくなり、事故を何度も起こすようになるそうです。また、専門家の意見などではないですが、「獣が人食いになるには人間が簡単に殺すことのできる獲物だと何かの拍子に体感してからだ」と言われることがあります。真偽の確かめようがないですが、人間の味を覚えて「美味しい」と感じる物好きなサメがいれば、『ジョーズ』のように足(鰭しげく?)しげく人間狩りに来るかもしれません・・・。

 

【参考文献】
片山龍峯 『クマにあったらどうするか』2014年 p212,213  
田中彰 『深海ザメを追え』2014年 p103
仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年 p63
村山司 『海洋生物学入門』2008年 p78
矢野和成 『サメ 軟骨魚類の不思議な生態』1998年 p70,71