ホホジロザメ (Carcharodon carcharias)

 


和名:ホホジロザメ
学名:Carcharodon carcharias
英名:Great white shark / White shark / White pointer
分類:ネズミザメ目ネズミザメ科ホホジロザメ属
CITES:附属書Ⅱ
生殖方法:母体依存型胎生・食卵&子宮ミルク
飼育難易度:★★★★★★(長期飼育実績なし)
見れる場所(野生):世界の熱帯・亜熱帯・温帯・亜寒帯水域、日本でも各地に分布
見れる場所(飼育):なし

 

【特徴】
言わずと知れた『ジョーズ』のモデルであり、知名度・人気ともに間違いなくNo.1のサメです。大型で筋肉質な体と尖った吻、大きな背鰭に鋭い歯は「Great」の名にふさわしいですが、単にWhite sharkと呼ばれることも多いです。英名の「white」は水上から見たときに他のサメに比べるとライトグレーに見えるからだそうです。

全長は4~5mほどで、ジンベエザメなどの濾過食性のサメを除けばサメ界トップクラスの大きさです。最大サイズはメディアなどで誇張されがちですが、はっきりと分かっているものでは6.4mほどです。尖った吻先に丸みをおびた真っ黒で大きな目、三角形の大きな第一背鰭に対し非常に小さい第二背鰭・臀鰭、大きな三日月形の尾鰭と尾柄部にある大きく隆起したキールが特徴です。

その顔つきからして見間違えようがないサメだと思いますが、近い仲間であるアオザメ、ネズミザメ、ニシネズミザメと少し似ています。一番簡単な見分け方は歯の形状とサイズです。ホホジロザメの歯は他3種と異なり幅広い三角形で縁がギザギザとノコギリ状になっています。この歯は噛みついたときに獲物に深く突き刺さり、頭を左右に振ると肉が一気に引き裂けるため、大型の獲物をしとめるのに適した形状と言えます。

上顎歯に比べ下顎歯がやや細いですが、両方とも形は似ていて同じように鋸歯状です。また、子供の頃は歯の両端、歯根と接する部分に小さな突起が出たような形になっています。

ホホジロザメの上顎歯。

 

小さいホホジロザメの上顎歯。よく見ると歯の両端に小さな突起が見える。

 

同じ若い個体の下顎歯。

 

【生態・行動など】
ホホジロザメは主に沿岸の表層域に生息していると言われていますが、オットセイやアザラシが多くいる島の周囲に集団で居座ることもあるようです。また、非常に長い距離を回遊することもあり、南アフリカからオーストラリアへ泳ぎまた帰るという往復2万キロの旅が記録されたこともあります。さらに、水深500~1000mまで潜行することも知られています。どうも狩りのやり方も含め行動が海域により異なるようで、はっきりした全体像はまだ分かっていません。

ホホジロザメをダイビングで見るとなればオーストラリア、米国カリフォルニア、南アフリカなど温かい海がイメージされますが、実はほとんど全世界の海に住んでおり、日本でも北海道を含めた各地で確認されています。寒すぎるようにも感じますが、ホホジロザメは奇網と呼ばれる熱交換システムを持っており、鰓から流れる冷えた血液が体内活動で温められた血管の熱で温められることで周囲の水温よりも3~14℃ほど高く保つことができます。

ホホジロザメはどうしても「人食いザメ」という偏ったイメージで見られがちですが、主な獲物はもちろん人間ではありません。成長段階で食事が異なり、小さなホホジロザメは主に魚や甲殻類、小さなサメを捕食します。ただ、小さいといっても後述する通り産まれた時点で1.5cm近くある立派な海のハンターです。現に、183cmのホホジロザメの胃の中から真っ二つに食いちぎられた子供のヤジブカが出てきたこともあります。

諸説ありますがだいたい300cm近くなると他のサメや硬骨魚類、イカなどと一緒に海生哺乳類を襲い始め、大きくなるにつれてその比率も増えていきます。普通の魚がアシカやクジラを襲うのはまず無理ですが、ホホジロザメは先述した体温の高さと体の大きさもあって驚異的なスピードで泳ぐことができます。

また、ホホジロザメが狩りの際にジャンプするシーンが有名ですが、これらの行動は海域により異なります。

ちなみに、ホホジロザメに瞬膜という目を覆う膜があると勘違いしている方が多いですが、ホホジロザメが狩りの際に白目に見えるのは眼球がひっくり返っているからであり、瞬膜をもっているからではありません。瞬膜をもっているのはメジロザメ目だけです。

獲物に噛みつく瞬間のホホジロザメ。

ほとんど敵無しのホホジロザメですが、人間を除く唯一の天敵はシャチです。シャチは大きなものではホホジロザメを超える大きさになり、徒党を組むように群れで襲ってきます。シャチがホホジロザメの肝臓だけを食いちぎったと思しき事例が記録されており、間違いなく彼らにとっての脅威でしょう。

ホホジロザメの生殖方法は他のネズミザメと同じように卵食タイプだとされてきましたが、実は卵食だけではなく子宮壁からミルクのような液体を与えていることが近年判明しました。ホホジロザメは妊娠初期段階でミルクに相当する脂質を多く含んだ液体を子宮壁から分泌して子供を育て、後期になると栄養卵を子宮内に産んで子供に食べさせてさらに大きく成長させます。子供のホホジロザメにはすでに小さく細長い歯が生えていて、これを用いて卵を食べていると思われます(ちなみに抜けた歯は胎仔に飲み込まれるので子宮壁が傷つくことはないようです)。

母胎内から取り出されたホホジロザメの胎仔です。卵食によって胃がパンパンに膨らんでいます。

 

【人間との関り】
『ジョーズ』やそれに続くサメ映画が相当な誇張と偏見に満ち溢れているのは間違いないですが、ホホジロザメが最も人間にとって最も危険なサメの一種であることもまた事実です。その大きさ、攻撃性、そして大きな獲物を狙う食性は人間にとって脅威であり、また沿岸の浅い海にも入ってくることがあるのでダイバーや漁師などが遭遇すること可能性もあります。そもそも、『ジョーズ』はニュージャージー州で実際に起きた連続サメ襲撃事件がもとになって書かれた小説を原作にした映画です。

日本でも1992年3月、愛媛県松山市で潜水夫がホホジロザメに殺されたと思しき事件が発生しています(実際は「行方不明」でサメも目撃されたわけではないですが、潜水服がズタズタに引き裂けており、歯型や残った歯の破片からホホジロザメの仕業と結論付けられました)。

ただし、ホホジロザメは混獲やゲームフィッシングで人間から殺される立場でもあります。むしろ、サメの襲撃による死者数を考えれば、人間がホホジロザメを殺している数の方が圧倒的に上回っています。現在はワシントン条約の附属書Ⅱに掲載されるなど絶滅が心配される動物であり、一部地域では保護の対象に指定されています。

また、ホホジロザメは研究者、ダイバー、僕を含むサメマニアからの憧れの存在として心を離さない動物でもあります。海外ではホホジロザメだけを扱った書籍が出版され、檻越しにホホジロザメを観察するケージダイビングは未だに人気です。ワシントン条約の規制があるにもかかわらず(あるいはそのせいで逆に?)ホホジロザメの歯や顎は他のサメとは比べ物にならないほど高価な人気商品です。沖縄のとあるお土産屋さんに本物のホホジロザメの歯1本が7万円で売られていたこともありました(しかも翌年に確認したら売却されていた!)。

ここまで人気で認知度の高いホホジロザメなので水族館でもし飼育できれば世界中から集客できるような超目玉展示になることは間違いないですが、幸か不幸かホホジロザメの長期飼育は実現できていません。理由はいくつかありますが、

・かなり速い速度で常に泳ぎ回るサメなので相当に大きな水槽が必要であること

・元気だとしても他の魚やサメを食い殺すために単独で飼育する必要はあること

・大きくなれば飼育員が命の危険にさらされること

などが挙げられます。

米国のモントレーベイ水族館で若い個体が198日飼育されましたが、同じ水槽のイコクエイラクブカを食い殺すなどの問題が起きたため逃がすことになりました。また、2016年には美ら海水族館が成魚の展示に成功しましたが、3日ほどですぐに死亡してしまいました。

 

【チャームポイント】
まずその姿が圧倒的にカッコいい。尖った顔つき、大きな歯、がっしりして筋肉質な体は力強さを超えてもはや色気を感じるほどです。

一方でまた美しさも兼ね備えたサメでもあります。大きな第一背鰭と三日月形の尾鰭が水を切る姿や水中を泳ぐ姿は実に優雅です。檻無しでホホジロザメと泳ぐのは命の危険が伴いますが、命がけで挑戦するダイバーの気持ちも分からなくはないと個人的には思います。

ここまで有名なサメにもかかわらず未だに謎が多いサメというのもまた魅力です。生殖に関する研究は沖縄美ら島財団がここ最近成果を上げていますが、出産場所や妊娠個体の分布などまだ不明な生態も多くあります。まず間違っても「気がついたら絶滅していた」なんてことがないように研究と保護を両立させて彼らの謎を解明できればいいですね。

【その他紹介】

【サイト内関連記事】

【参考文献】
Jose I. Castro 『The Sharks of North America』 2011年 p258~266
沖縄美ら島財団 『ホホジロザメの不思議な繁殖方法に関する論文が掲載されました』2020年4月14日アクセス
沖縄美ら島財団 『ホホジロザメ胎仔の歯の成長に関する論文が掲載されました』2020年4月14日アクセス
田中彰 『美しき捕食者 サメ図鑑』2016年 p15
仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年 p136~139
仲谷一宏 『A Fatal Attack by a White Shark and a Review of Shark Attacks in Japanese Waters 』2020年4月14日アクセス

【ギャラリー】
ギャラリー内の写真についてのお問い合わせは以下までお願いします。
shark.sociology.ricky@gmail.com