ニシオンデンザメ (Somniosus microcephalus)

和名:ニシオンデンザメ
学名:Somniosus microcephalus
英名:Greenland Shark
分類:ツノザメ目オンデンザメ科オンデンザメ属
CITES:記載なし
生殖方法:卵黄依存型胎生
飼育難易度:★★★★★★(長期飼育実績なし)
見れる場所(野生):北大西洋全域、北極海
見れる場所(飼育):なし

 

【特徴】
巨大であり長寿であり、一般のサメのイメージとは異なるずんぐりして太った魚雷みたいなシルエットと目から垂れた寄生虫。サメの中でもインパクトの強い一種ではないでしょうか。見た目はオンデンザメに非常に似ていて、第一背鰭が胸鰭と腹鰭のほぼ中間(やや腹鰭より)に位置し、臀鰭がなく、尾鰭は下葉が大きくて団扇に近い形になっています。

全長は4~5m前後で、最大6m以上になることもあります。ツノザメ目というグループの仲間ですが、ヨロイザメやダルマザメなどと同様に、背鰭にツノ(棘)を持っていません。

なお、和名の「ニシ」というのは大西洋のニシです。日本近海にオンデンザメというかなりよく似た種が生息しているので、大西洋にいる方を「ニシオンデンザメ」と呼びます。オンデンザメとは生息海域が異なるため野生個体を見間違うリスクはないと思いますが、標本として並べられるとなかなか厄介です。

・ニシオンデンザメは背鰭がオンデンザメより胸鰭側にあり、両背鰭の間隔(X)が吻端から第一鰓孔までの距離(Y)に等しい(オンデンザメはX=0.7Yほど)。

・オンデンザメの吻端から第一背鰭の始まりまでの距離は全長の44%以上である(ニシオンデンザメはもっと狭い)。

上記のような見分け方が図鑑で紹介されていますが、より標本が集まらないとはっきりしたことは言えないとする学者もいるので、専門家の間でも意見は一致していないようです。

 

 

【生態・行動など】
ニシオンデンザメは水温0.6~12℃ほどの非常に冷たい海域に生息しています。オンデンザメと合わせて深海のモンスター的なイメージがあるかもしれませんが、深さというより水温で住む場所を選んでいるようで、北極海では冬に表層に上がってくることもあります。

ニシオンデンザメの目はコペポーダと呼ばれる寄生虫の仲間に寄生されていることが多く、ある研究者の調べによれば、調べられた1505体のニシオンデンザメのうち、99%が寄生されていたそうです(84%が両目、15%が片目)。これによってニシオンデンザメが視力を失っているのか、逆に何か役に立つことがあるのか、詳細は分かっていませんが、寄生されても問題なく生きていけることは間違いないと思います。

ニシオンデンザメのイメージ図。本当にこんな感じで目から寄生虫がぶら下がっている。

ニシオンデンザメは体のサイズを考慮した際に、世界で最も泳ぎが遅い生物です。通常泳ぐスピードは体が大きくなればなるほど上がっていきますが、ニシオンデンザメは4m以上という大きな体であるにもかかわらず、平均時速800mというスローペースで泳ぎます。

ニシオンデンザメは水温が0℃に近い極寒の海にいる変温動物であるため、体温が非常に低いと推測されます。体温が低ければ筋肉を速く動かすこともできず、ニシオンデンザメは尾鰭を一回に振るのに、なんと8秒かかります。イメージがつかない方は水族館で実際にサメを観察すながら、8秒間数えてみてください。ニシオンデンザメがどれほどのんびりした泳ぎなのかが想像できると思います。

そんなに泳ぎが遅いニシオンデンザメですが、何故か胃の中からはアザラシや魚類、イカの仲間、鳥の仲間など様々なものが見つかります。時速800mというのは平均遊泳速度なので、瞬発的なスピードを出して襲っているのか。それにしても恒温動物で動きの速いアザラシを捕食することができるのか。残念ながらニシオンデンザメの狩りの瞬間をとらえた映像記録がないため、この点は謎です。

ちなみに、「バイオロギングでカメラを付ければ捕食の瞬間を見られるのでは?」と思い、バイオロギングの専門家の方にその点を伺ったら、「体温が低くて代謝が低い分食事頻度が少ないため、現在の録画可能時間では捕食を記録するのは難しい」という旨の回答をいただきました。ニシオンデンザメの食事の謎が解けるのにはもう少しかかりそうです。

代謝に関連したニシオンデンザメの生態で興味深いのは、彼らが非常に長寿ということです。推定年齢が400歳近いことが最近明らかになりました。

炭素の放射性同位体という研究を用いた結果、調査された18尾のニシオンデンザメの平均年齢は少なく見積もっても272歳。全長5mの雌は392歳であることが分かりました。この測定方法は誤差が120歳前後でるらしいですが、いずれにしても人間の感覚を超えた長寿であることは間違いないです。

ニシオンデンザメについてはまだ変わっていないことが多いですが、これは秘められた特殊能力というよりも、低水温に住む巨大生物であるが故の自然な現象であると考えられます。体の大きな生物ほど成長に時間がかかるし、代謝速度が速い生物の方が早く成長するので、体が大きいけど代謝が遅いニシオンデンザメは、成熟するのにとんでもない時間がかかってしまい、それが人間にとって長い100年とか200年になってしまったということだと思います。

そんなニシオンデンザメは卵黄依存型の胎生だと考えられ、10尾ほどの子供を産むとされていますが、まだ詳細が明らかになっていません。

 

【人間との関り】
ニシオンデンザメは1950年代ごろまで肝油を目的に漁獲されていました。現在では肝油狙いでニシオンデンザメを捕まえることはないようですが、ニシオンデンザメは現地では魚を狙った延縄で混獲されることもあります。先述の通り成熟するためにかなりの時間がかかるサメなので、混獲が続けばすぐに絶滅してしまうことが懸念されます。

このニシオンデンザメを食べて食中毒になった事例があり、一部図鑑では「毒がある」と記載がありますが、具体的にどういう毒なのか、ニシオンデンザメ固有のものなのかは分からないです。一応日干しにすれば食べられるらしいですが、寿命が100年単位の高次捕食者ということは、汚染物質の生物濃縮を起こしていた場合に恐ろしいことになりそうなので、保全のことも考えて積極的に食べるのは控えた方がいい気がします。

 

【チャームポイント】
ボケっとした顔、サメにもかかわらず代謝が低いために遅すぎるその動き、目から垂れ下がった寄生虫。こうした特徴は「変な生き物」の要素を寄せ集めたようで興味をそそられますし、そのうえで全長6mクラスで400歳生きるというスペックを持っているニシオンデンザメは、不思議な生物のトップクラスに君臨すると思います。

サメに対して「モンスター」という言葉が使われるのはたいてい「人食いザメ」という偏見を前提にしていますが、ニシオンデンザメの場合は、もはや「モンスター」が誉め言葉になるかもしれないですね。

【その他紹介】

 

【サイト内関連記事】
400歳生きる巨大ザメ?ニシオンデンザメを解説!

【参考文献】
Jose I. Castro 『The Sharks of North America』 2011年 p124~130
仲谷一宏 『サメ ー海の王者たちー 改訂版』2016年 p179
渡辺佑基 『進化の法則は北極のサメが知っていた』
Julius Nielsen 『The Greenland shark (Somniosus microcephalus) Diet, tracking and radiocarbon age estimate reveal the world’s oldest vertebrate』

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