新種の巨大深海魚はサメを超えるトッププレデター?駿河湾の主ヨコヅナイワシを解説!

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おはヨシキリザメ!サメ社会学者Rickyです!

今回はつい最近新種として公開された、あの深海魚ヨコヅナイワシを紹介します!

「駿河湾で最近見つかった新種」という感じで大々的に紹介されていたので、なんとなく名前だけ知ってるという方もいると思いますが、そもそもどんな魚で、何がそんなにすごいのか?

先日、東海大学海洋科学博物館に展示されている実物も観察してきたので、ヨコヅナイワシとはどんな魚なのか解説していきます!

 

 

【巨大深海魚に遭遇】

初めに言っておくと、新種の発見というのは、実は多くの人が思っているほど派手で珍しいことではないです。昆虫などの小さな生き物であれば割と頻繁に見つかっています。

しかも、その発見の中には、同じ種類だと思っていたものを調べて分析した結果、「これとこれは別種として分けた方が良いのでは」という論文を出して新種記載する、というものがあります。いわゆる恐竜の生き残りとかツチノコみたいな、幻の生物を未開の地で発見!という感じの新種発見ばかりではないんですね。

では、今回のヨコヅナイワシはどうなのかというと、誰も見たことがない未知の深海魚、先ほどの例で言えばツチノコの発見に近いものなんです。

ヨコヅナイワシは2016年、駿河湾で初めて漁獲されました。

神奈川県立海洋科学高校所属の実習船「湘南丸」が行っていた深海延縄調査の際に、水深2000mを超える深さから、見たこともない魚が採集されました。

その魚は全長1m以上で、鮮やかな青色の鱗を持っており、その一部が剥がれて黒い表面が見えていました。その場の誰も見たことのない姿をしていて、「シーラカンスではないか?」と思う人もいたそうです。

いくら深海とはいえ、盛んに漁業や調査が行われていて比較的陸にも近い駿河湾で、全長1mを超える大きさの、誰も見たことがない魚が見つかるというのは非常に珍しいことです。

大型で完全に未知の存在だった海洋生物が発見された事例としては1976年メガマウス発見が思い浮かびますが、今回のヨコヅナイワシはそれに匹敵するインパクトがあります。

東海大学海洋科学博物館に展示されているメガマウス標本。

その後の調査も併せて合計4尾の採集に成功し、詳細な形態観察、CTスキャン、分子系統解析などを用いて徹底的に調べられました。

詳細はJAMSTECが出している論文があるのでここでは簡単に紹介しますが、ヒレの位置関係、歯の特徴、顔の形状、鱗の数、脊椎骨、そしてミトコンドリアゲノムの解析などの結果から、この魚はセキトリイワシ科クログチイワシ属の新種として認められ、今年2021年に論文が発表されました。

その際、世界最大のセキトリイワシの仲間であることから、ヨコヅナイワシと名づけられました。学名はNarcetes shonanmaruae、種小名は採集した船である湘南丸に因んでいます。

ちなみに、ヨコヅナイワシの論文が発表され新種としてニュースが出たのは今年2021年ですが、実は2017年に行われた国立科学博物館の「深海展」にて、この標本は世間にお披露目されていました。ただし、その時は「セキトリイワシ科の不明種」として展示していて、論文発表前であったことから撮影などは一切禁止されていました。

新種の発見というのは、ただ見つけるだけでなく、詳細な分析を行って、論文にきちんとまとめて初めて認められるものなんですね。

 

 

【イワシの仲間なのか?】

ヨコヅナイワシ発見の経緯をお話ししてきましたが、そもそもヨコヅナイワシが分類されているセキトリイワシ科を知らないという方も多いと思いますので、簡単にそこも触れておきます。

ヨコヅナイワシを含め、セキトリイワシたちは「イワシ」と名がついていますが、イワシの仲間ではありません。

魚たちも沢山のグループに分かれていて、僕たちが普段口にしたり水族館で観察するイワシはニシン目というグループに分類されます。一方で、ヨコヅナイワシたちは二ギス目という全く別のグループなんです。

イメージしやすいように哺乳類に例えると、僕たちとハムスターくらい分類が離れています。

魚には「○○イワシ」とか「○○ザメ」という名前がついているけど、実は分類学上かなり離れているというトラップがあるので要注意です(コバンザメもチョウザメもサメではありません)。

ここまで聞いて「ニギス目なんてきいたことないよ!」という人も多いかもしれませんが、恐らくこ多くの人が知っているあの深海魚、デメニギスもニギス目の仲間です。出目にニギスでデメニギスですね。

ニギス目デメニギス科デメニギス属のデメニギス(Macropinna microstoma)

なので、「ヨコヅナイワシってイワシの仲間なの?」という質問には、イワシではなくデメニギスに近い仲間って言えば、概ね分かりやすくてマニアック過ぎない回答になるのかなって思っています。

 

 

【深海のトッププレデター】

ヨコヅナイワシの興味深い点としては、深海生態系の頂点に君臨するトッププレデターであることです。

これを言うと、「深海にサメっているけどサメがトップじゃないの?」とか「見つかったばかりなのに何でそんなこと分かるの?」という疑問が湧いてくると思うので、簡単に紹介していきます。

採集されたヨコヅナイワシの胃の内容物を調べてみると、魚の耳石およびアシロ科の魚のものと思しき消化物が確認されました。

セキトリイワシ科の多くはクラゲなどゼラチン質のプランクトンを食べることで知られていますが、今回見つかったヨコヅナイワシに関しては、魚食性であることが推測できます。

確かにヨコヅナイワシの顔を見てみると、プランクトン食って感じしないですよね。

この写真だと分かりづらいですが、大きな口の中には細かい歯がびっしり生えていました。

ただ、これだけだと、深海の捕食者ではあっても、トッププレデターかどうかは分かりません。そこで登場するのが、栄養段階というものです。

栄養段階をざっくりといえば、生態系ピラミッドの上のほうに行くほど高くなる数値です。これを読んでいるあなたも、一度こんな図をみたことあると思います。

小さな植物プランクトンがいて、それを食べる動物プランクトンがいて、それを食べる小魚、さらにそれを食べる大きな魚、さらにそれを食べる・・・みたいになっています。上のほうに行くほど沢山の資源が必要になるので、生物の数は少なくなりピラミッド状になります。

この食う・食われるの関係の中で、僕たちはアミノ酸というものを摂取しています。必須アミノ酸とか聞いたことありますよね。そのアミノ酸の中に窒素が含まれています。この窒素には、質量数が異なるもの、N14と、N15があります。ちなみに、こんなふうに同じ原子なのに質量数が異なるものを同位体と言います。

「訳が分からなくなってきた」と思っている人のためにざっくりとまとめると、生態系ピラミッドの上のほうに行くほど、この窒素同位体のうちN15の割合が高い傾向にあるんです。そのため、捕まえた生物の同位体を分析することによって栄養段階の数値を導き出し、その環境でどれくらい高次の捕食者なのかを示すことができるんです。この方法なら、直接観察することが難しくてサンプル数も限られた深海生物の生態も、ある程度調べることができます。

そして、深海の捕食者たちの栄養段階をグラフ化するとざっくりこのようになります。

捕食者のイメージが強いサメたちが並んでいますが、ヨコヅナイワシは全長5m近くになるオンデンザメやカグラザメを差し置いてトップに位置しています。これが、「深海のトッププレデター」と言われる理由です。

念のために言っておきますが、これはあくまで栄養段階の話であって、ヨコヅナイワシがサメよりも強いとか弱いとかそういう話ではないです。生物投資の関係は単純な弱肉強食ではないですし、そもそも彼らに戦う機会があるのかどうかも謎です。

 

【ヨコヅナイワシを何故研究するのか?】
ここまでヨコヅナイワシの紹介をしてきましたが、何故このような魚に注目する必要があるのでしょうか。

これはこのチャンネルでよく取り上げるサメにも通じるテーマなので、最後に触れておこうと思います。

一般的に生態系ピラミッドの上の方にいる高次消費者、つまりプレデターたちは、環境変化や人間の影響を受けやすいと言われています。

基本的に捕食者たちは大きくて力強くて天敵に襲われる心配というのはあまりないですが、彼らが生きていくには沢山のエネルギーが必要です。なので、ピラミッドの下位の生物たちが豊富にいないと生きていけません。そして、子供を産む数が少なく、成長するまでも時間がかかることがほとんどです。

例えば小魚の代表的な存在であるマアジは2~3歳で成熟し、数万という単位で卵を生みます。一方で、サメは成熟まで10年以上かかる場合があり、一度の出産で2匹しか赤ちゃんを産まないサメもいます。

サメの仲間であるシロワニは、一度の出産2尾の子供しか産まない。

こういうサメのような生物は、産む数が少なくても大きくて強い子供を産むので生き残る確率は高いのですが、人間の漁業活動によって一気に数を減らすと、回復するまでに時間がかかり、そのまま絶滅してしまうリスクも大きいです。

高次捕食者がいなくなってしまった場合、それが食べていた栄養段階の低い生き物や、それと争う関係だった他の捕食者の数が増えたりします。そして、そうした生物が増え過ぎた結果、深海の生態系が変わってしまう恐れがあります。こういう影響をトップダウン効果と言います。

深海の生態系と聞くと縁遠い話に聞こえるかもしれませんが、表層を泳ぐイメージのある魚でも深海に餌を食べに行っていることがありますし、幼魚の頃に浅い海で暮らす深海魚も沢山います。深海生態系の変化は、巡り巡って僕たちにとって身近な魚たち、そして僕たち自身の社会・健康に影響する可能性すらあるんです。

ヨコヅナイワシの繁殖についてはまだ何も分かっていないに等しいと思いますが、栄養段階が高いこと、そしてこれまで見つかってこなかったことから、やはり他の高次捕食者と一緒で、そこまで数が多くなく、子供を産む数も少ない可能性はあります。

こうしたトッププレデータの謎を解明していくのは、深海の生態系がどうなっていて、どんな影響を受けていて、今僕たちが何をすべきなのかを考えるために必要な取り組みなんです。

まだ誰も見たことがない新種の巨大魚が見つかったというだけでロマンのあることですが、こういう研究にどんな意義があるのか、その辺も考えて欲しいなと思います。

 

【最後に】

以上が、ヨコヅナイワシの解説でした!

まだ分かっていないことが多い深海魚ですが、少しでも身近に感じてもらえたら嬉しいです。

最後になりますが、東海大学海洋科学博物館のヨコヅナイワシ標本展示が、当初の4月4日までから5月9日まで延長して行われているそうなので、もしまだ見ていないという方は、ぜひこの機会に訪れてみてください!

ヨコヅナイワシ発見に関する論文はコチラ↓

 

 

投稿者プロフィール

1992年東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。アメリカ合衆国、ポートランド州立大学に留学。

HPやYouTubeでサメなどの海洋生物・水族の生態を紹介、環境問題の解説を行っている。サメや関連イベント参加、水族館巡り、ダイビング、標本作製などサメや生き物活中心の生活を送る。水族館のボランティアスタッフの経験あり。トークイベントのプレゼンターやライターとしても活動。

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shark.sociology.ricky@gmail.com

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コメント

  1. […] 前回の記事でヨコヅナイワシという新種の魚を紹介しましたが、今回はそのヨコヅナイワシの標本が展示されている、東海大学海洋科学博物館の生き物を紹介します。 […]

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